第四話

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第四話

 すぐさま魔術電報で中央政府に連絡を取ったところ、街から3日間ほどで到着する洞窟に住む魔物の討伐依頼が出ていた。  その討伐許可が出たので、あたしたちは、そこに向かうことにした。  宿で、簡易食を作ってもらい、午後からの出発である。  見慣れているだろうに街の男女は通り掛かる彼を見て頬を染めていた。  めっちゃモテるやん。  どうやら気軽に声をかけるのも憚れるほどの存在らしい。  本人は日常茶飯事のようで、いたって無反応である。 「憲兵さん、逃げないからさ、手錠外してくんない?」  森外れに差し掛かり、あたしはそう尋ねた。  街では、人に紛れるからなどと言って取り合ってくれそうにないと踏んだのだ。  彼は、あたしをじーっと見ると、手錠の鍵を外し、手錠と鍵を懐にしまった。 「S級ライセンサーがくだらないことをしないと思うので、了解した」  素直に応じてくれてよかった。  ようやく自由になった右手で思い切り伸びをする。 「君は、なにをしにこの国へ?」  この国ーーラインバルト国は、港町になっており、交易もさかんで、あたしがいるところでは採れない魔石があると聞いて、遠路はるばるやってきたのだ。  商人の話によるとこの辺りでは、自然発生の魔石もあるらしい。  最も、あたしは、金欲しさに、ライセンサーが勝手に魔物を魔石化したか、ライセンサーから密売した道具を使った誰かが、魔石をこしらえたのではと穿ってみているが、真相は不明だ。  どんなに法で規制したところで、破るやつは破る。  この国では、人間と魔物の関係は極めて良好だったため、思った以上の魔物討伐の依頼が来ることはなく、結局大半の時間は、物見遊山を満喫していただけなのだが。 「石探しよ」 「そうか」  なんなの、聞いたわりにこの反応の薄さ。 「ところで、後ろのストーカーはなに?」  あたしは、振り返り、握りこぶし大の大きさで見える距離にいる女性を見る。  栗毛色のショートボブで、栗毛色の瞳の白いワンピースと白いブーツを履いた軽装の美人だ。  腰には細剣を差している。  木の影から覗き見るようにしていてものすごく不自然だ。  さっきは、レストランの窓からこちらを見ていたし。 「ストーカーではない。  同僚のキシカワさんだ。  ちょっとシャイな方なんだ」  シャイとかを逸脱した距離感にしか思えないが、本人が気にしていないならいいだろう。 「憲兵さんというのは好きではない」 「レオンさんは、ヤマカワさんの知り合いなわけ?」 「レオンでいい」 「じゃあ、あたしもリアで良いわよ」  彼は、少しだけ頬を緩ませ、首をブンブン振った。  なんだ? 「なぜそう思う?」 「勘としか言えないけれど」  彼は一拍おいた。 「……俺は、戦争孤児でここの孤児院に流れ着いた。  ヤマカワさんは、俺が子供の頃近くに住んでいて、周りの子供と馴染めず、ひとりぼっちだった俺に声をかけてくれて、一緒に遊んでくれた。勉強も教えてくれたんだ」  突然の恩人の死。  しかも自然死ではなく殺害されている。  情緒不安定も無理はないか。 「……世話になった恩人が、金のために殺されたと思うと悔しくて。  なんとしても犯人を捕まえようと思って」  彼は足を止めてあたしを見る。 「それが、まさか。  君が犯人なのが残念だ」  違うっつーの。  盛大な勘違いではあるが、意気込みは理解できる。 「そんなふうな親切な方なら恨みを買うこともなさそうね」 「だから、理由がそれしかない」  うむむむ。  あたしの武器を使った誰かが、ヤマカワさんを殺害したという線もないわけではないが、私は風呂場にも武器を持込み、肌身放さずなのだ。  いつ盗む? 「その、君のS級ライセンスというのはどのくらいすごいんだ?」  いつの間にか、お前と呼ぶのは止めたらしい。  なんだって! 知らないの! と思ったが、普通に生きていれば関わることのない職業が私のそれだ。  魔石を欲しがるのは権力者か途方もない金持ちかはたまた冒険者や同業者。  憲兵である彼には、縁のないものだ。 「そのライセンスを持っているのは、あたしを含めて世界に3人しかいない」 「ほう」  そもそも魔石ハンターは、中央政府管轄のライセンス制の職業である。  ランクは、魔石の出来不出来で決まり、A〜Eに加えてSがある。  一日24時間のうち、20時間を勉強に充てること3年。落とすための実技を乗り越え、Eライセンスが取れる。  それからは、ひたすら石づくりだ。  この世界でもっとも難関のライセンスだが、希望者は山のようにいる。  世界に100人しかいないAランクまで上がれば、高収入が生きている限り保証される、取れれば最高のライセンスだからだ。  このようにライセンス化しているのは、単純に魔石が膨大な金になるからである。  魔石に関わることは全部許可がいる。  よって、自分勝手に魔物を魔石化したり、許可なく魔石を販売したりして、それが見つかった場合は、国家転覆罪で終身刑か死刑である。  金貨1枚くらいで買えるものもあるが、あたしのランクの石になると、先程の小粒の石で、使用人つきの城が買えるほどになる。  大きさと質により、国が買えるほどの値段がつけられる。  持ち歩くのは危ないので、手持ちにはないが、中央政府の保管金庫にはあたし所有の国が2つ買える魔石がある。  ドラゴンを魔石化したもので、異常に価値が高いからだ。  魔石は、身につけるだけで、人間の能力や武具の性能を上げる石なので、こぞって欲しがる人間が後を絶たない。  あくまで噂だが、不死だの、不老の魔石もあるとされているのだから。 「それはすごい」 「尊敬した?」 「まだ若いのに努力家なんだな」  あたしを見る目が、ふと柔らかくなった。  ん? 若いのに? 「ちょっと、あなた、あたしをいくつと思って」  彼は立ち止まり頭から足先まで見つめた。 「15歳くらい?」  どこ見て言った、いま? 「節穴すぎる! 21だわ!」 「俺より3つ歳上っ」  口元を抑えてびっくりしている。 「ほんとに?」  あたしはライセンス証を見せる。 「すまない。  俺の周りの21歳は、あんな感じなので」  後ろの女性を見たのであたしももう一度見る。  彼女は、胸を両腕で寄せ、セクシーなポーズをとった。  どんだけ地獄耳。  むむむ。確かに、グラビアサイズ。 「ついてきてるけど、いいの?」 「彼女は、この国で一番強い剣士でもあるから問題ない」 「はぁ」  ひとは見かけによらないものだ。
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