第五話

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第五話

 特になにが起こるでもなく夜になり、風のない適当な広場で野宿をすることになった。  川で魚を釣り、火を起こし、串焼きにしたものと乾パンの味気ない食事である。  まぁ、乾パンのわりには美味しいと思うが。  今日の夕飯も豪勢な宿の料理だと思っていたのに、落差にため息が出る。 「あ、そうだ。  レオン」 「ん?」 「あたしの冤罪が晴れたら、食事を奢りなさいよ」 「ん?」 「たらふく美味いもの三昧をする予定がおじゃんになったのよ!  そんくらいしてもいいでしょ」  既に食べ終えたレオンは、火をぼんやり見ている。 「わかった。  その折は、好きなだけご馳走しよう」 「財布をすっからかんにしてやるから、覚悟するのね」  息巻くあたしに、レオンの返事はない。  近付くと、目を瞑っている。  まだ全然夜という時間じゃないのに。  もう寝るんかい。  することないし、あたしも寝るか。  そう思い、離れようとした瞬間腕を掴まれる。 「ゎ」  そのまま引っ張られ、後ろから抱きしめられる形になる。 「ねぇ」  そのまま地面にごろりと横になる。  近い近い。 「ちょちょちょ!」  目の前の木の影から現れたキシカワさんにもギョッとしたが、抱きしめられていることにも、ただただ困惑する。 「逃げ、られる、か、ら」  息が耳にかかる。  犯人ではないのだから、もはや逃げる理由がない。  逃げて嫌がらせをしてやろうというなんて気にもならない。 「逃げないから、離して」 「朝にならない、と、わから、ない」  腑抜けた声で言われて、ため息を吐いた。 「明日は、手錠と、選ん」  で、と続くはずの言葉はなかった。  寝るの早いな。  深々と息を吐いた。  彫刻のように整っている顔が目の前ににある。  否おうなしにドキドキする。  今まで見た中で、随一の見目だ。  憲兵辞めて、モデルをしても一生食べていけると思う。  誰か、モデル雑誌に推薦しろ。 「無自覚だとめんどいわー」
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