第六話

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第六話

 「どわっ」  翌朝、目を覚ますと、目の前にレオンの顔があり、思わず叫んだ。  彼はその声に薄く目を開ける。  それから目を擦ると「おはよう」とやや寝ぼけた声で言われた。 「ええ、おはよ」  身体を起こし、頭を2、3回振る。 「顔洗ってきたら?」 「一緒に」  信用ねー。  あたしは立ち上がり頷くと、揃って昨日魚を釣った小川まで歩く。 「目、覚めた?」 「ああ」  顔を洗ったレオンに聞いた瞬間、彼はあたしの背を押した。  つんのめって、右足が川に入ってしまう。 「いきなりなにすんのよ!」  と振り返り見ればあたしのいたところに、深々と矢が刺さっている。 「……誰かいる」  固い声音で、レオンは言い、剣を抜いた。  しばらく待ったが相手は姿を現さない。  金品目的のただの野盗であれば出てくるだろう。  もっとも相手が悪いと踏んで退散したということも考えられるが。 「気配が消えた」  彼はそう言って剣を鞘にしまう。  あたしは、矢を抜いた。  矢じりの部分は普通だが、何か塗ってある。  レオンは、手近な葉でそれを拭おうとしたが、拭う前に触れただけで葉が茶色く変色した。 「毒矢か。刺されば即死だ。血中から毒が回り助からない」  脅しとかいうレベルではない。 「暗殺者か」  彼は呟いた。 「は?」  あたしは息を飲んだ。  暗殺者?  野盗と闘ったことはある。しかし、暗殺者に出くわしたことはない。  完全に殺しにかかってきていることといい、矢の数と方向を考えるに、あたし狙いなのは間違いない。  ……暗殺者って。  うーん。  狙われる理由。  単純に考えると、ヤマカワさんを殺害した真犯人がひとを雇ったんだろう。  凶器と推定されるものを所持したあたしが死ねば、罪を押し付けられるからだ。  昨夜のことにブチ切れたキシカワさんの仕業かとも浮かんだが、これはやりすぎだ。彼女ではないだろう。  真犯人から狙われる危険性も考えて、あのまま宿にいるよりはいくばくか安全と思ったが、そうではなかった。  暗殺者を雇うとは。 「絶対あたし犯人じゃないじゃん、あたし狙われてるじゃん」 「とにかく俺の傍から離れるな」 「そうね」 「容疑者に死なれるのは困る」 「……そうね」
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