第九話

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第九話

 足音に混じって、鳴き声が聞こえる。  今回の魔物により、近隣の村の家畜が襲われ、被害数の多さについに廃業する畜産家が出たらしい。  相手は、空を飛ぶ魔物で、何度も飛来する姿を見たが、立ち撃ちできなかったための依頼だ。  洞窟の奥に光が見える。  洞窟の天井には穴が開いており、積み重なった木々の間から日が漏れているのだった。  物陰から覗くと、確かに大きな鶏の形をした魔物がいる。  でか……。  そりゃあ、こんだけ大きいなら、無理だわ。  灰色の大柄な魔物で、人間は簡単に踏みつぶされそうだった。  これは、不意打ちを狙い、一撃で行った方がいいだろう。  暴れられでもしたら、洞窟が壊れそうだ。 「どうする?」 「レオンは、ここにいて。短期決戦でいく」  あたしは腰に差していた短剣を抜く。  この剣があたしの武器だ。  小さいけれど、一撃必殺できる強度のものだ。  さて、どこから行くか。  あたしがつけているアクセサリーは全て魔石を加工したもの。  飛行を可能にする魔石だ。  上から行くか。  どうする?  ひとまず、撹乱させるか。  息を整え、剣を構え飛び出した瞬間。  鶏はあたしを薙ぎ払おうと羽根を広げ、大振りに旋回させる。  速い!  まずい、避けれない! 「リア!」  襟元を掴まれ、立ち位置が替わり、レオンが反対側の洞窟の壁にふっ飛ばされる。  鶏は、いきり立ち声を上げた。 「レオン、しっかりして!」  走り寄り、助けようとするも、彼は手を伸ばし、すっと立ち上がった。 「平気だ。心配しなくていい」  平気な、の?  壁が思いっきり凹んでいる。  音といい、かなりの衝撃だったはずだ。  にも関わらず、彼からは血すら出てない。  嘘でしょ。 「丈夫が取り柄なんだ。  子供の頃、屋根から落ちても、かすり傷だけだった」  ーーえ、人間?  心の中で突っ込む。 「ぅん。  ま、無事なら良かった」  レオンは言った。 「リア、俺を盾にして突き進め。  俺は、それまで倒れない」  そう言って剣を抜く。 「いや、でも。そんなの、レオンがボロボロに」 「いや、ならん。  俺は、人生で一度もボロボロになったことも、ボコボコになったこともない」 「こわ」 「だから、遠慮せず行け」 「叩かれすぎて死んじゃうかも」 「黒獅子の矜持を見せてやろう」 「でも」  彼はあたしの肩に手を置いた。 「ーー死は覚悟してる。  君がそう言った」  死んでも自己責任と確かに言った。  あたしとしては、やや冗談だったし、魔物の大きさも一般的なものを想像していた。  だから、このサイズは予想外だったし、この事態も予想外だ。 「軍にいると色々予想外なことはある。  俺は必ずあなたを護り抜く。  信じてほしい」  真剣な眼差しだった。  何度も何度も彼は護ってくれたじゃないか。 「信じるよ」  あたしは頷いた。 「ーーあたしは、攻撃は1回しかしない。  一瞬の隙ができるまで攻撃されると思う」 「ああ」 「魔物を魔石に変えるには心臓を武器でひとつきする必要があるの」 「わかった。狙える場所まで誘導する」  彼は軽くあたしの頭を撫でた。 「わ!  もう。  死んでもご飯は奢ってもらうからね」 「おう」  あたしたちは、拳をこつんと重ねた。
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