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飼われたい
冬木に飼われている猫が羨ましい、と笹生は思った。推しと生活を共に出来る。理想的だ。
――え、俺飼われたいとか、そんな願望持ってるの?
笹生は具体的に想像してみる。毎朝同じベッドに寝て自由に体をのびのびと伸ばし、飼い主の安眠を邪魔しながら幸せな時間を過ごす。ちゃーるを貰いながらのなでなでタイム。最高かよ。……など、笹生の妄想は止まらない。
「どうしました?」
「あっいえ! ……ハイボール頼も。冬木さんは?」
「では端末を貸してください。――ところで」
冬木は受け取ったタブレット端末でオーダーを入れると、話を少し戻した。
「先程は止めてしまいましたが、やはり有耶無耶は良くないですね。僕が笹生くんに何らかの感情を抱いていると思いますか?」
「――ど、うでしょう。正直……よく」
「一旦話を整理しましょうか。すり合わせ不足による行き違いは、双方にとって良くない結果を招きます」
冬木の態度は終始淡々としていて、表情にも乏しい。時折見せる僅かな笑顔と、和らぐ口調、そして距離感のおかしな指先が笹生を無駄にどきどきさせる。
だからと言って、それが笹生に何らかの感情を抱いているという証拠にはならない。誰にでもこうなのかも知れない。それに笹生は元より冬木のことを特別視していたので、妙なフィルタがかかってしまっている可能性もある。
運ばれてきたハイボールを嚥下しながら、先程冬木に直してもらった眼鏡のレンズ越しに、相手を改めて観察してみた。
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