すり合わせ

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すり合わせ

 三十八歳の、上司。冷たい感じに見える整った顔。けれど実際に冷たいわけではない。冷徹な男、という印象だ。冷徹と冷酷はまったく違う。冷静に物事を見極めている。仕事は出来るし部下思いだ。  ――背が高くてスーツが似合う。三つ揃えのスーツを着せてみたい。大人の男。好き。 「僕の顔に何かついていますか」  あまりにも観察しすぎたのか、冬木の低音が静かに響いた。  喧騒が一瞬遠のいた、ような気がした。 「冬木さんて、ほんと声が良い……」 「――」 「あと顔が良い……絶妙に好き。一生推す……」  何を言い出したのだろうかと、笹生自身思ってはいたが、アルコールが手伝って口の滑りが良くなっていた。冬木は唐突に褒められて、驚いたようにほんの少し目を大きくした。 「笹生くんは、素直ですね。でも『推す』というのは何でしょう」 「自分がイケメンだって認めてる発言ですか……? 意外と強いですねでもそんなとこも良い……」  一旦口にしてしまった好意が、体の奥から独り言のように溢れてくる。 「笹生くんが僕をどのように見ているのか、なんとなく知っています。それが僕とは食い違った感情であることも」 「……それ。すり合わせ、ですか?」 「実は僕には昔から不思議なチカラがありまして」 「はあ」 「相手の眼鏡を一旦支配すると、その眼鏡を通して持ち主の心を自分に向けさせることが出来るんですよ。だから僕に都合の良い好意を向けてくれるかなと思ったんですが……」 「冬木さん、酔っ払ってます?」 「酔っ払っているのは夏也くんのほうですね」
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