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ツヨビタン
さらりと名前呼びされ、笹生はどきりとする。そして眼鏡を支配、と言われて丁番を直して貰ったのを思い出す。あれが支配ということなのだろうか。眼鏡屋をやっていたら世界征服でも出来そうな能力だ。
「……あの。冬木さんに都合の良い好意……ってなんですか……?」
笹生とは食い違った感情とはなんなのか。聞いて良いのか。さっき止めたままにしておいたのに蒸し返したのは何故なのか。
冬木は言葉を返さなかった。
「俺、冬木さんのことは勿論大好きです! 入社以来の俺の推し、なので。いい機会なので宣言してしまいますが、俺は冬木さんの、強火担! なんです!」
「ツヨビタン……聞き慣れない言葉が出てきましたね」
「えっとつまり、めちゃくちゃ推してるってことです。……使いません?」
「それは例えば、好きなアーティストやキャラクターに向ける感情に似ているのでしょうか」
「――です。俺、出社するの辛かった時期があって」
会社に推しを作ったら仕事が楽しくなるのでは? とその時考えた笹生は、身近にいた出来るイケメン上司を自らの推しと定めたのだ。その選択に大した意味はなかったが、笹生の期待を裏切ることなく、冬木は推しであり続けてくれた。
「僕を推しにして、会社は楽しいものになりましたか?」
「おかげで転職もせずに、今日という日を迎えられました」
「そうですね、お疲れ様でした」
冬木がやわらかく微笑した。その笑顔にくらりとする。過剰なファンサービスは心臓に悪い。
「今日の笹生くんはよく喋りますね。やはり眼鏡を支配されているのが効いているのでしょうか」
「うわぁ俺何をべらべらと……!」
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