嘘?

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嘘?

 笹生が慌てて眼鏡を外すと、冬木は面白そうに破顔した。 「――僕の眼鏡の話、信じましたか?」 「えっ嘘?!」 「さてどうでしょう。でも僕の前で外したら駄目ですよ。それは誘っているのと同義です。可愛すぎて、理性がなくなりそうになる」 「誘っ……」 「僕の舌が性的に見えたのであればそれは、僕が君の皮膚を舐めるのを想像したからではないですか?」  本当に冬木の舌が自分の皮膚の上を這っているような感覚に囚われて、ぞくりとした。体がちりちりとするこの変な感じはなんだろう。 「想像……してますね? 今まさに」 「――して、ません」 「本当に?」  心臓がばくばく言い出して、笹生は急に立ち上がった。このまま冬木の目の前にいたら、おかしくなってしまう。  ぽちゃんと音がして、ワイシャツにチヂミのタレが飛んだ。 「ああ。早くシミ抜きしないと残ってしまいますね」 「あーっこのシャツ! お気に入りなのに……っ」 「シミ抜きしましょうか。タクシーを呼べばすぐですから」 「えっ何が」 「僕の家で、シミ抜きしましょう。……話の整理も、まだ出来ていませんし」  冬木は囁くように言って、おしぼりを持った手をシミに伸ばした。ぽんぽんと拭かれるが、やはり落ちるわけもない。  ――さりげないボディタッチ。俺の推しは意外と押しが強い! いや駄洒落か!  推しの家に誘われて断る選択肢がこの世にあるだろうか。こんなことになるなんて思ってもみなかった。その夜上司の家に事実上『お持ち帰り』されたのだと笹生が気づいたのは、翌朝のことだった。
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