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失言羞恥プレイ
泡のついた自分の右手を、冬木がぺろりと舐めた。舌先の動きがやけにエロティックに感じられ、笹生の情緒が若干おかしくなる。
がっつり見すぎてしまったのか、脇に置いていた眼鏡をかけ直した冬木が熱い視線に気づいたようだった。
「何か?」
「……冬木さんの仕草、なんかエロいなぁ、と」
つい本音が出てしまい、言ってからしまったと後悔する。口は災いの元、考えてから喋れ、とよく親に注意されて育ってきたが、なかなか直るものでもない。
「どの部分がでしょう?」
「あっ、いやいや。そんなに突っ込むとこじゃないですよ!」
己の不適切な言動を取り消そうと、笹生は片手を振った。上司相手に何を言っているのだろう。
「いえ、良かったら今後の参考までに確認しておきたいのですが」
「参考ってなんのですか? 何これ、俺の失言羞恥プレイかなんかですか?」
「笹生くんはそういうの好きなんですか」
「別に好きじゃないですけど……っ」
冬木はまた僅かに口元を歪め、あとから運ばれてきた料理を適当に取り分けてくれた。自分がやるべきだったのではと笹生が思った時には、既に綺麗に盛られていた。
「さ、どうぞ」
取り分けた皿が笹生の手元に置かれると、まるで発言を促すかのような沈黙が訪れた。
「……ありがとうございます……」
あくまでもどのようにエロスを感じたのか、喋らせるつもりなのだろうか。笹生は困って意味もなく天井についた照明を眺めた。和紙で作られた丸いランプシェードが、ぽこぽこと存在している。淡い光に照らされた、ここは二人だけの簡易空間だった。
――推しは少し遠くから見守るほうが、良かったんだろうか。
距離が近くてどうにかなりそうだ。
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