パパ?

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パパ?

 落ち着きを取り戻そうと、あるいは己の中に芽生えた戸惑いから逃げ出そうと、笹生(さそう)夏也(なつや)は生ビールを一気に飲み干した。黄金色の冷たい刺激に、頭が幾分麻痺してくる。 「食事が冷めてしまいますね。食べましょう。ほら、このチヂミ美味しいですよ。唐揚げもどうぞ」  冬木に勧められるまま、取り皿に盛られた料理を口の中に入れる。全国どこでも食べられるチェーン店の味だが、値段なりに美味しい。しかし体がアルコールを求めている。体というより、笹生の頭が求めているのかもしれない。とりあえず、胃に食べ物を納めて落ち着くことにした。 「俺これ好きなんですよねチヂミ」 「食欲旺盛で何より」  十歳以上年が離れているからか、子ども扱いされているような気分になった。大人の男の余裕を見せつけられているのだろうか。冬木の視線が普段より柔らかい気がして、無駄にどきどきするものだから口にしたものの味がよくわからなくなった。 「もしかして冬木さんて、お子さんいます?」 「……唐突ですね。既婚者かどうかではなく?」 「面倒見良いから……いいパパなのかなってふと思ったんで……」  そう言われてみれば、冬木が既婚者かどうかなんて、笹生は気にしたことがなかった。  結婚していてもおかしくはない年齢だったが、その左手に指輪は嵌っていない。笹生が把握する限り、社内では冬木の周りにそういった気配は感じられなかったが、一歩外に出ればそんなのはわからない。 「妻も子もいませんよ。猫ならいますが」 「そっかぁ……猫……」
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