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ううん……寝苦しい。正確には首筋の吐息と、身体に巻き付いた腕……。 「ちょ……っ、何して……っ!?」 何で抱き付かれてるのよ、私!いや、昨日は一緒に寝たから……だけど私たちって契約結婚よね!?なのに何故ロシェが普通に後ろからくっついて来ているのかしら……。 まぁ、首筋に吐息が吹きかかるとは言え、噛み付かれていないのは幸いかしらね……? とは言え……。 「あの……ロシェ?そろそろ放してくれないかしら……?」 前世では、ヴァンパイアは日の光が苦手と言う伝承はあったけれど、夜目に優れ夜の戦闘に秀でている……と言う特色があるだけで、日の光が苦手なわけでもなければ、灰になるわけでもない。 さらには為政者とあらば、朝から仕事にかかるのは普通だろう。祖国ではお父さまばかり早朝、もしくは深夜から駆り出されて、肝心の王は昼にならないと起きてこないらしいが。 ヴァンパイアのロードは違うわよね?むしろそんな国、祖国をおいて存在しないだろう。と言うか……滅びるだろう。 まぁ、私としてもお父さまに冤罪を被せた祖国など、愛着も何もないし、むしろあの王家が滅びたほうが民衆のためだとも思う。 「……難しい顔をしている」 耳元から届く声にハッとすれば、ロシェが瞼を開いていた。 「祖国のこと、思い出していただけよ」 「……祖国に未練があるのか」 「ないわよ。もう、何も」 私が心配するのはお父さまだけだ。あの国に思い残すことなどない。 「ロイドのようなことを言う」 ロイド……? それってどういう意味なのだろう……? 「あの……ロ……」 それを問おうとすれば、扉が開きすたすたとロイドが入ってくる。 「おはようございます、朝食は用意が済んでおりますので、シャーロットさまもお越しください」 うん……官吏用の食堂とはいかないわよね。 「分かってるわ。ロシェが構わないのなら、行くわ」 「構わない」 そう答えるロシェは無表情なのだが、どこか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか……? こちらに来て、こんな穏やかな朝食なんて初めてよ。その上、誰かと一緒だなんてね。 ロシェは朝はパンとコーヒーだけなようで、私にはほかにもサラダやフルーツが出た。 あまり会話はないけど……それでも、今までみたいな居心地の悪さは……ないのよね。 朝食を終えれば、私は早速書庫である。 「よし、今日も行くわよ!」 アッシュのヤロウをぎゃふんと言わせたいしね! 「昼食はこちらへ戻って来るように」 「う……うん」 ロシェの言葉におずおずと頷く。契約結婚だと言うのに、食事は……一緒にとってくれるの……?前の政略結婚とは大違いね。 「それと、シャーロットさま」 その時、ロイドがこちらに歩いてくる。その隣には、昨日は見なかった侍女がいる。まぁ、城の侍女が昨日の彼女たちだけなはずはないけれど。 「彼女はジェーン。シャーロットさまの侍女を任せる、後任の侍女長です」 「へ……っ!?」 もう後任が……いや、いなきゃ困るでしょうけど。何かしら……ロイドの計算めいたものを感じる……。多分ロイドは相当計算高いわよ。ロシェには主従の契り以上に従順に見えるのだけど……でもこの態度もロシェが私に敵意を向けていないから……な、ような気がする。まぁ、それはそれでありがたいことなのでしょうけど。 「よろしくお願いします、シャーロットさま」 ジェーンがにこりと微笑む。しかし、ジェーンもヴァンパイアだからこその飛びっきりの美人なわけだが……グラマラスタイプの美女である。……ちょっと羨ま……いやいや何でもない。 でも昨日の侍女たちのような嫌な感じはしないわよね。ロイドも今度こそはしっかりとした侍女を連れて来てくれたようだ。 「でも、私これから書庫よ?」 ジェーンはジェーンで侍女長としての仕事に向かうのだろうか。 「ご一緒いたします」 「そ……それでいいの?」 「もちろんですわ。何でも頼ってくださいませね」 「そ……そう?ありがとう」 それならば、早速書庫に……と、思った時だった。 こちらにすたすたと歩いてくる人影に『あっ』と声を上げる。 「グレイさん!?」 そう、それは昨日突然私をロシェの妃に任じたグレイだったのだ。いやまぁ、いろいろよくはしてもらったけど、そのまま放置してどっか行ってしまわなくても……。 「あぁ、いたか」 グレイは私の前に立つと、すっと何かを出してきて、反射的に受けとる。 「……これは」 「預かってきた」 お父さまの字で書かれた手紙である。中には……『シャーリィの無事を祈っている』それだけが書かれている。お父さまは……生きていらっしゃる……っ。だからこそ、ハンター協会にこの手紙を託してくれたんだ。 「……まぁ、本人の居所は分からなかったが」 でも生き残れば……また会える。 「それと……それを受け取った時に聞いた話だがエ、メラルド王国は宰相家を国のものとして奪取したが、その成果としての財産はそれほど回収できなかったようだ」 何から何までやることが汚いわね。私をこちらに嫁がせて、お父さまに冤罪を吹っ掛けた挙げ句、公爵家の財産を自分たちのものにしようとするとは。お父さまのことだから、エメラルド王国の銀行じゃなくて、ローゼンクロスの世界銀行にでも預けていたんじゃないかしらね……? あの愚鈍な王家でも、銀行の存在くらいは知っているでしょうし、公爵家に回収しようとしていた財産がなかったのなら、銀行の貸金庫にアタリをつけるだろう。 だからこその、ローゼンクロスの銀行を使う。私をヴァンパイアから救い出して欲しいと依頼しながらも、ちゃっかり自分も利用するとか、本当にやりそうね。 現にエメラルド王国がどうともできないのなら、その可能性が充分にある。 そう思いを馳せつつも、お父さまの手紙をポケットにしまう。あ、そう言えば。 「ところでグレイさんは……」 ロシェとはどんな関係なのだろうか?何だかロシェが妙にいいこで待ってる気がするのだが……。 しかし、その時だった。 「やはりあんたが関わっていたのね!?」 いやに覚えのある声が響く。 この声は、そしてずかずかと集まってきたのは……。 「何で……いるの?」 「何でですって!?お前たちのせいで、暇を与えられてしまったんじゃない!」 それは昨日城を追い出されたはずの前侍女長とその取り巻きたちである。
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