晩餐と夜会

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「待つんだ、アイリーナ!」 「あの……っ!私はエメラルド王国の王女でアイリーナと申しますわ……!お初に御目に……っ」 アッシュが焦って止めに入るが、それよりも我先にとロシェの前に躍り出たのは、忘れもしない……アイリーナ。 しかしアイリーナもロシェの隣にいる私に気が付いたようで、キッと目を吊り上げる。 「どうしてここにシャーロットがいるのよ!?」 とても信じられないと言う表情だ。そりゃぁそうよね。ただの人間の小娘を下位ヴァンパイアたちの餌にしたつもりが、こうして私がピンピンして、さらにはロシェの隣にいるのだもの。 「ロードさまぁっ!その女は最低な女なのです!私たちの愛を無理矢理引き裂き、さらにはロードさまも騙そうとしているのです!どうかアイリーナの言葉で目をお醒ましになって!」 そんなので騙される男がいるかと問いたいが、しかしころっと騙された男がそのすぐ隣にいる。 まぁ、アイリーナがロシェの前に堂々と口上を述べたことに関しては、さすがに不味いと青い顔をしているが。 しかしまさかとは思うけど、ロシェまでアイリーナに騙されるなんてことは……。 ちらりとロシェを見れば……無表情だ。今までの嬉しそうな顔でもしょぼん顔でもない。……無。 しかし何よりも恐ろしい存在に気が付いてしまう。 その一歩下がったところにいるロイドが般若の笑みなのだけど!?ロシェはアイリーナの誘惑に不動だと言うことが分かって何よりだけど……! でも何かあってもあの腹黒ロイドがいれば何とかなら気がするわね……! 「カーマイン公爵」 「は、はいっ!」 名を呼ばれ、アッシュが震えながら臣下の礼をとる。しかしその行為にアイリーナは自分が無視されたと思ったらしい。いや、無視されてるけど、ロードに対して不敬としか思われない言動をとっているのだから当然じゃない。 「この人間の女は何……」 何だ、と問おうとしたのだろうか。 しかしそれに被せるように声をあげたのはアイリーナである。 「ロードさまぁっ!聞いてください!」 はぁ……っ!?あのこバカなの!?もしかしたら自国では許されているから、他国でもと思ったのだろうか。しかし王の言葉の途中に無理矢理割り込むのが許されるのは、アイリーナを溺愛しアイリーナの望むことなら何でもかんでも聞くあんたの父親だけよ! 他国や上位種の王にそれが許されるはずはない。つまりエメラルド王国の王は、アイリーナにそれを許してはならなかった。いや、だからこそこんな残念な王女に育ったのだろうが。 「黙れ、貴様には聞いていない。小娘が」 ロシェの低く重圧感のある声が会場内に響き渡り、会場内がしんと静まり返り、緊張感に包まれる。 「……っ、その……っ」 あのアイリーナが……震えている。やはりロシェはヴァンパイアのロード。それだけの力や迫力があるのだ。 私だって、アッシュや下位ヴァンパイアの怒気や狂気には本能的な恐怖を抱いたわよ。 ……あれ……?そう言えば……ロシェもヴァンパイアの覇気を纏っているのは分かるけど……平気ね。 周りはひしひしと感じているようだが。私も鈍くはないと思っていたのだが……不思議だわ。 ふと、そう感じつつも、今は緊張感に包まれたこの場の空気であろう。 「き、聞いてください、ロード!」 しかしアイリーナが口を噤みながらも、果敢にも声をあげたのはアッシュである。 やはり血筋だけは王族の親戚と言うことか。 「その……シャーロットは本当に……アイリーナに酷いことをして……っ」 「それはお前の方ではないのか?その不敬な人間の女と不倫をして一方的に捨てたのだろう?」 うぐおぅっ!ストレートに言うわね!?むしろその方がスカッとするけれど! 「ち、違います!シャーロットはアイリーナを脅して無理矢理ヴァンパイア公爵の夫人の座に……っ」 「シャーロットはそのようなことはしない」 ロシェ……? 出会って間もないと言うのに……そう信じてくれるの? 「私はお前たちの婚姻に文句を言うことはないが、ロードへの礼儀もわきまえぬ女の嘘に騙されるなど、ヴァンパイア貴族の風上にもおけぬな」 ロシェが冷たく吐き捨てる。 「そ、そんな……っ!ロード、目をお醒ましください!」 「そうよぉっ!ロードさまぁっ!」 先程は脅えを見せていたアイリーナだが、アッシュがロシェにびびりながらも声をあげたことで息を吹き替えしたようだ。 「不愉快だ。出ていけ」 そうロシェが告げたのなら、今度こそ……と、思えば次はアイリーナがまた新たな嘘を並べる。 「そ……それに、シャーロットは最悪な女なのです!アッシュの部下のヴァンパイアたちを大量に殺したんです……っ!私、とてもショックで……っ。だからそんな凶悪な女に騙されないで!」 いや……確かにその、私を襲おうとしたヴァンパイアたちはグレイの手によって始末されたが……しかし私がグレイの手を借りたことを彼女たちは知るよしもない。残っていたのはどこにもいない私と、アッシュの命令で私を襲おうとしたヴァンパイアたちの亡骸だけのはずである。 「それが凶悪か……?」 ロシェが嘲笑するように吐き捨てる。 「私は長らくロードとして顕現しているが、ロードとして同胞を処断したことなど5万とある。それが凶悪なら、私はたいそう横暴な男なのだろうな」 あまり触れたくはないが、絶対王政と言うものは、長い歴史の中で同胞を処断することだってある。なるべく迎えたくはない場面ではあるけれどね。何百年も統治してきたロシェならば……そういった事実もある。いや……ただでさえ血生臭いヴァンパイアよ……?ないはずがないのだ。 「ついでに言わせれば、シャーロットにそんなことをできる能力はないな」 「歯向かってきたら一発で殺せます」 ロシェが私のことを分かってくれているのは嬉しい。私のことを信じてくれているのも嬉しい。でも、さらりとそのあとに続けたひと言はどうなのよ、ロイド!?確かにこんな腹黒大魔神相手にできるはずがないけれど! ハンターの技能などない私だ。ヴァンパイアの血を低く混血鬼だって相手にできるか分からない。しかもロイドは今は完全なヴァンパイアである。 ロイドが言ったことも事実だろうがら言い方ぁっ!!! 「そして……シャーロットは私の妃だ。軽々しくシャーロットの名を呼ぶな」 そう、ロシェが迷いなく告げる。 ただの契約結婚だって言うのに……その言葉はとても嬉しいものだった。 しかしその事実に驚愕したアッシュに反して、声をあらげるのはやはりアイリーナであった。 「嘘よ嘘よ、嘘よ――――っ!ロードの妃になれるなら、私がなるべきよ!」 いや……あなたアッシュを寝取って再婚しておいて……何言ってるの……?
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