ロシェの罪

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ロシェの罪

――――その晩。 人間を秘密裏に苛んで来たヴァンパイアの家がひとつ、潰れ、ヴァンパイアハンターたちに処罰されることになった。 「あの……ロシェ、聞いてもいい?」 「……何だ」 毎晩、隣に寝るだけではあるが、一緒に過ごすことで、少しは……ロシェのことを聞いてもいいのだろうか。 「あの、高位のヴァンパイアが、人間を秘密裏に拐ってたって……こと」 「どの程度知っている」 「それは……カーマイン公爵家がそう言ったことに手を染めていて、それを黙認することは高位のヴァンパイアたちにとっては当然のことだって……ほかの高位のヴァンパイアたちも秘密裏にやっているのではなかったの?」 「昔の話だ。今のシステムができてから、徐々に手を出す高位のヴァンパイアは減った」 システムって……人間の高貴な娘が政略結婚と言う名目のもと、嫁ぐと言うことね。 「でもどうして減ったの……?」 人間の娘を公式に妻に迎えようとも、人間の生き血を求めるヴァンパイアはいるはずよ。 「グレイの存在かな……」 「グレイって……その、あなたのお兄さん……なのよね」 思えばグレイとロシェが兄弟であると言う話題も、ロイドからは聞いているがこうしてロシェと話すのは初めてかも。 「そうだ。グレイは……先代が人間の国から拐ってきた人間の女に生ませた」 先代の時代って何百年前かしら……少なくともロシェは在位200年ほど。今のシステムになったのもそれくらい昔のことだったはず。 今のロードになってから、人間とヴァンパイアの関係は、人間はただ脅えながら、ヴァンパイアハンターだけを希望に逃げ惑う生活からは解放されつつあったのだろう。一部、秘密裏に拐っていた事実もあったのだろうが。 「でもあの頃はグレイは先代のコレクションだった」 その言い方は……どうかとも思うが、それもヴァンパイアなのよね。 「私はどうしてもグレイが欲しかった」 「え……?」 お兄ちゃん子なのは薄々感じ取っていたけれど…気になる言い方ね。 「だがグレイは自力で先代の元から逃げ、ヴァンパイアハンターとなってしまった」 「どんだけ超人なのかしら」 いや、ロードの血を受け継いでいるからには、その血が作用したとしても不思議じゃないが。 「そして容赦なくヴァンパイアたちを屠ったから、みな恐れた。それでもヴァンパイアとハンターの間の不干渉地帯は先代がいる限りは手は出せない」 何故なら先代も、その罪に手を染めた。その証人がグレイなのだ。 「だが先代から私に代替わりし、人間との間に新たなシステムを作った。私が先代のシステムを踏襲しなかったことで、みな手を出さなくなった。それをらやらなくとも人間の妻を娶れるのだ。それでもカーマイン公爵家は続けた。秘密裏にな」 なるほど。賢いヴァンパイアたちはロードの命に従ったが、変われなかったカーマイン公爵家は、自分たちは特別だと思っていたのか続けたわけね。 「でもどうして……ロシェはそのシステムを作ったの……?」 ロシェと過ごして感じることは、やはりヴァンパイアと人間には種の隔たりがあると言うこと。ヴァンパイアの考え方が根底にあるのだと言うこと。それなのにロシェは人間の国々と上手く付き合っていく……そんなシステムを作ったのだ。 「……グレイに叱られた」 え……? 「グレイは人間を拐って孕ませることを厭うていた」 そりゃぁまぁ……それがグレイの生い立ちであり、グレイは純血のヴァンパイアと主従の契約を交わさなければヴァンパイアの血に呑まれていずれは自分が誰かも分からなくなり、狂う。 それを討伐するのもヴァンパイアハンターなのだ。 「だが、私はそれでもグレイが欲しかったから……グレイが怒らない方法で、代わりを作ったのだ」 「か、代わりってどういうこと……?」 「ちゃんと金を払って、承諾を得て人間の女に混血のヴァンパイアを生ませた」 ……はい……? 「ちょっと待って……あなた、私との結婚が初婚よね……?王子はいなかったはずよ」 「王子にはしていないが、子はいる」 子持ちだなんて初耳なんだけど!? 「人間の女は金があればいいと養育を放棄したから、グレイになるかと思って混血のヴァンパイアは育てた」 「いいや、ならないでしょうどう見ても!」 グレイも混血のヴァンパイアとは言え、だからって何もかもが違ってる! 「やっぱりグレイにはならないと私も気が付いたから、人間の元に返した」 「返したって……混血のヴァンパイアが人間のところで暮らしていけると思う……?」 ヴァンパイアの血を受け継いでいると知られれば、いずれは人間を襲うようになると追い出されるわよ。 もしくは子どものうちに、殺される。 「グレイにもそう言われてめちゃくちゃ怒られた」 「そりゃそうよ。で、その後どうしたのよ」 「何かよく分からないが、追いかけてきたから、城に置いている」 「……えっ」 自力でロシェを追いかけてきたの!?ロシェの血を引くとは言え、ものすごい執念では。 「あの、私も会ったことある……?」 それなら挨拶しなくてはいけないのでは。 「毎日共にいるが」 え……えぇ……?誰かしら。ん……?混血のヴァンパイア……なのよね。 「まさか……」 「ロイドだが」 まさかあの腹黒魔犬が夫の連れ子だったなんて誰が思おうか。しかし言われてみれば……似てるのよね。 「まぁ、それで……そう言う方法はグレイには怒られると知ったから、褒めてもらえる方法を考えた」 それが今のシステムってわけ。本当にロシェは……グレイに褒めてもらえることをしたいところは、やはりお兄ちゃんっ子と言うことだ。 何はともあれ、それが今の両種族の表向きの平穏に繋がっている。 「でも、ロイドのことはちゃんとしなさいよ」 「ちゃんと……?そうすればグレイに褒められるのか」 ほんと根底にはそれがあるのよね。私の夫って言うのも、グレイに勧められたからかちゃんとやってくれている。 「褒められるかどうかは分からないけど、少なくとも、あなたが抱えている問題はどうにかすべきよ。まずはロイドのことも、ちゃんと認知して、父親らしくしなさいよ」 もう300歳なんだから。 「……シャーロットは……」 「うん?」 「褒めてくれるのか?」 こんな時まで相変わらずわんこ特性と言うか。 「でも、グレイの代わりにはなれないわよ」 「グレイとは別枠」 「……そうなの?」 まぁお兄ちゃん枠だと困るけど。 「それなら、褒めてはあげるわよ」 「……うん」 何かしら。やっぱりかわいいというか、懐いてくれるのは本当にわんこみたいよね。 何だか微笑ましくなってしまった夜だった。
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