すれ違い

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すれ違い

――――そして、翌朝。 「ロイド」 早速ロイドと話をしに行くと言うロシェを隣で見守る私。 「何でしょうか、ロード」 「ロイドを私の息子として認知したから、ロイドが私の第一の後継者となった」 「は……」 ロイドの表情が凍り付く。 あれ……?えぇと……取り敢えず認知は勧めたけれど……そもそもロイドはロードの後継者と言う立場は望んでいたのかしら……?やはり本人の許可を取ってからの方が。 「シャーロット」 そしてちゃんと言ったよと輝かんばかりの表情を向けてくるロシェ。ちゃんと褒めてあげないと、嘘になっちゃうし……。 「よ、よくやったわね」 にこり、と褒めてあげたのだが。 「後で大事な話がありますので、侍従長室に来るように」 「ひぅんっ!?」 ロイドから死の宣告を告げられた気がした。 「それなら私も聞く」 え……ロシェ……?付いてきてくれるの……? 「ロード……」 「ロイド……その」 しかもロシェが何だかもじもじしているのだけれど。 「ぱぱと呼んでもいい」 その瞬間、空気がさらに凍り付いた。いや……その、そこのテコ入れは断じてしていないわよ!だから目を見開いて睨んで来ないでよ、ロイド――――っ! ……結局その後、ロシェに部屋の前で待てをさせつつ、侍従長室でロイドと向かい合うことになった。 「その……ごめんなさい。昨晩ロシェといろんな話をして……その過程でロシェからロイドの話を聞いたのよ。その……父親らしくしたらとは話したけど……まさか後継者にするとか言い出すとは思ってもいなくて……」 ロイドに申し訳なく詫びる。これは完全に私が原因だもの……! 「ロイドが嫌なら、私もロシェを説得するから……!」 「別に嫌だとは言っていない」 できるだけ丁寧に敬語を使うロイドだが、今日はたまに出るロイドの素よね。 「そう言う立場であるのは、自覚の上で、周りもそう見ている。ただロードが公にしないだけだ」 「でも、公にしたともとれる宣言をしてしまって……」 ロイドは自分でもそう言う立場を自覚はしているのだ。そして笑顔が凍り付いただけでその立場を嫌だと思っているわけではないのよね……? 「あなたはそれでいいのか」 「私……?」 「私がロシェの息子だと、後継者となれば、今後あなたがロシェとの子を産んだとしても、後継者にはなれない」 「え……?子を……?やだ、何言ってるの!?私とロシェは契約結婚よ?白い結婚なんだから、子も何もないわよ。むしろロイドさえいいなら、跡継ぎができて、ヴァンパイアの国としても安泰じゃない。私は用が済んだらとっととここを出ていくわよ」 カーマイン公爵家が落ち目ならば、狙われることもなくなるだろうし。あと心配なのはエメラルド王国だが、その魔の手が延びないようなところに身を寄せなきゃね。 「それ、本気で言ってる?」 「……え?」 ロイドの真顔が突き刺さる。私……変なこと、言ってるかしら……?だって契約結婚ってそう言うことでしょう? しかしその時、侍従長室の扉がガチャリと開く。 後ろを振り返れば、待てをしていたはずのロシェが立っていた。 ヴァンパイアは身体能力に加えて、五感も優れている。ヴァンパイア用の城だもの。対策の防音設備もあるだろうけど、もしかして……聴こえていた……? 「出ていく……のか」 ロシェがどうしてか呆然と問うてくる。 「そりゃぁ契約結婚なんだから……用が済んでもここに居座るだなんて、図々しいことはしないわ。働いた分のお給金をもらって、ちゃんと出ていくわ。だからあなたはロイドとちゃんと父子(おやこ)で仲良く……」 してね、と言おうとしたのだが。 ロシェがサッと踵を返してどこかへ走り去ってしまう。 「ろ……ロシェ!?ちょっと……っ!?ど、どうしたのよ……もうっ」 「ここまでバカだとは……っ」 ロイドが椅子から立ち上がる。 「そ……その、ロイドっ」 ロイドを振り返れば、どうしてかゾクリと悪寒が走る。 これは間違いなく、ヴァンパイアを恐いと思う人間の本能だ。 「あなたはもう少し、自覚すべきだ」 「……っ」 その、何を……。 「これくらいでビビっているくせに、ロードを恐いと思ったことはないだろう」 「……えと……」 ロイドが机から放れ、私の目と鼻の先に迫る。 そう、問われても……あれ……そう言えば。ロシェのことは、恐いと思ったことがない。 「ロードはそこにいるだけで、ヴァンパイアでも恐ろしいと思う。緊張感を帯びるものだ。それがヴァンパイアロードと言う存在だ。それを人間が呑気に頭撫でるとか異常な行動なんだよ」 それはその……叱られているのかしら。でもしょうがないじゃない。撫でないと『くぅ~ん』って効果音が聴こえてくるんだもの。 「お前は充分ロードにとって重要な存在なんだ」 私が……ロシェの……? 「そもそも契約結婚なんて話はどこから出てきた」 それは……グレイに勧められてふたりで結婚することに……。あれ……?そう言えばグレイは一度も『契約結婚』だなんて言ってないような……。 まさかとは思うけど……私が状況からそう見なしていただけ……?だとしたら……。 ロイドが呆れたように息を吐き、ヴァンパイアの圧が緩む。 気が付いた時には、自然と足が向いていた。ロシェがどこへ行ったのか分からないけど、とにかく追いかけねばと思ったのだ。
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