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本当は最初から悔しかった。けれど貴族の娘として生まれたからには、耐えねばならないこともある。けれど彼女はそんな役目すら、こなしていない。 そんな女にしてやられたのが……何よりも悔しかった。 地下に放り込まれた私の前には、不気味な笑みを浮かべるヴァンパイアたちが押し寄せる。 これから何が行われるのか……それは……吸血だけでは済まされないであろうことは、女の本能が告げている。 「公爵もまさかこんなおこぼれをくれるたぁなぁ……?」 「不味そうだが、人間の血は特別だからなぁ」 「味見は……血ぃ以外もいいんだろう?」 ダメだ……逃げることなどできない。恐ろしい……そう、ヴァンパイアとは本来、恐ろしいものなのだ。今の(ロード)は人間と争うことを望まない。だからこそ、共存の道を歩む。 しかし本来ならば、人間の血を啜る恐ろしい化け物だ。 そしてヒト型であるがゆえ、それは血だけでは済まされないことがある。 ――――せっかく転生までさせておいて、ここで終わるだなんて……酷すぎるわよ。 こぼれでる涙で滲んだ視界に、鮮血が飛び散った。 ……私のではない。なら、誰の……。 「全て滅びろ、ヴァンパイアども」 聞いたことのない男の声が響いた瞬間、化け物たちの慟哭がこだまする。 「き……きさ……っ、グレイっ」 「死ね」 ライトグレーの髪のその男は、容赦なくヴァンパイアを仕留める。それも、対ヴァンパイア用の魔法銃をぶっぱなして。 そしてその場にヴァンパイアたちの骸が広がれば、グレイと呼ばれた男がこちらを振り返る。年齢は30代後半、赤い瞳、そして色の抜けたように白い肌。まるで見惚れてしまうほどの美人であるが、どこかひとを寄せ付けないようなオーラを纏っている。 そして人間離れをしているとはいえ、ヴァンパイアをいとも簡単に仕留めたのなら、彼は間違いなくヴァンパイアハンターだ。 「シャーロット・ガーネットだな」 私の旧姓……。離縁されたのなら、旧姓に戻るから、合っているけれど。 「お前を回収に来た」 か……回収って、まるでもののような。しかし目の前で起きた凄惨な殺戮に、未だ身体はビクビクと震えている。 「余計なヴァンパイアが来ないうちに、ずらかるぞ」 そう言うとグレイは私の腰を脇に抱えれば、すばやい動きで階段を駆け上がり、侵入に使ったのであろう、破壊された窓ガラスから、用意にヴァンパイア公爵の屋敷を抜け出した。 あれほどまでにヴァンパイアたちの悲鳴がこだましたと言うのに……静かすぎる。 ――――いや、違う。悲鳴すらかききえるほどの、賑わい。地下牢のある区画とは正反対にある豪華な区画では、夜だと言うのに窓から絢爛な光が漏れている。 再婚するからと、早速アイリーナをお披露目したと言うことか……。 そしてヴァンパイアたちの血の匂いが充満することなどお構いなしにパーティーにほうけるだなんて……何て愚かなヴァンパイア公爵であろうか。 私はあんな愚かなヴァンパイアに嫁いでいたのか……。
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