祖国の地

1/1
前へ
/27ページ
次へ

祖国の地

久々に帰った祖国は……いや、もう新しい国となったこのガーネット王国は空気すらも変わっていると言うのに、どこか懐かしさで溢れている。 ロシェの特性上、出迎えは少数精鋭ではあるが、いくらか見た顔もある。 横暴な先王の時代もお父さまを支持してくれていた顔だ。 しかし彼らは彼らでやはりロシェを本能的に恐いと思うのか、少し萎縮して……いや、違う。 「ロシェ、威嚇しないの!」 ふとして振り返れば、ロシェが物凄い渋面だった。 「ロシェ。久々の父娘の再会なんだ。少し我慢しろ」 「……っ」 グレイの言葉にロシェが悔しそうに頷く。まさか……私とお父さまに嫉妬したのかしら……? 「……グレイから聞いたときは倒れるかと思ったが……本当のようだな」 お父さまがゆっくりと息を吐く。お父さまはハンター協会を通じてグレイとやり取りをしていたが、しかし同時に私のことも聞いていたらしい。 「本当に、ロードの妃になったのか」 「……そうよ。でもお父さま。私はロードと言うよりもロシェの妻になったのよ」 そう言えば、お父さまは驚いたような表情をすれば、破顔する。 「これも血筋か……だか、お前らしいよ、シャーリィ」 血筋……とは……?思い浮かぶのは直近で話題に出たロザリア・ガーネットだが……私には魔女の血なんてほぼ流れていないはずよ。受け継いだのはこの瞳の色だけのはずだわ。 「シャーロット」 そしてロシェがおもむろにこちらに歩いてくる。 お父さまは緊張しつつも、ロシェと向かい合う。周りなんて卒倒しそうなほどなのに。 「アレン・ガーネット」 「……はい」 人間よりも上位種の王・ロードに、お父さまが緊張した様子で礼を返す。 「……シャーロットは……娘さんを私にください」 「……っ」 そ……それ!本当に言うの!?言っちゃったわよ……!? そしてその言葉にはお父さまがきょとんとしている。そりゃぁそうである。私には前世の記憶があるから、その段取りを知っているとは言え、お父さまは生粋の貴族よ!?まさか自分がそれを言われるだなんて……思ってもみないはずだ。 さらには周りもロードへの恐怖など忘れてきょとんとしている。 「……」 そしてお父さまは真剣にロシェを見つめると、静かに息を吐く。 「お断りします」 お父さまぁっ!?むしろ、よくロード相手にそれを……いや、それでこそうちのお父さまだけど……!いいのかしら、上位種のロードにそれは……! しかもロシェも……。 「何故だ……!」 大人げなくロードの覇気全開よ……!そこまで本気なのは私としても嬉しいけど、周りの人間たちがこぞって気絶したわよ!?お父さまはかろうじて立っているけれど……これも父親としてのプライドか何かかしら。 「……冗談です」 そしてお父さまが小さく漏らす。 「……っ」 そしてようやっとロシェが威圧を緩めるが、どうすんのよ、この惨状。 後でグレイに怒られるの必至よ……? 「シャーリィがあなたと共に在ることを望むのなら、私は応援いたします。それも……恐らくロザリア・ガーネットの予言なのでしょう」 え……?お父さま、今、ロザリア・ガーネットの予言って……。 「娘をよろしくお願いします」 そう言って、お父さまがロシェに深々と頭を下げる。お父さまったら……。 「当然だ。シャーロットは私が生涯に渡り、守る」 ロシェも……。何だか、こしょばゆいけれど、とても嬉しい。 ――――その後は、お父さまの王政に対してロシェが祝福の言葉を述べ、少数で晩餐をともにした。 しかし気になるのは……。 「ロシェ。お父さまに聞きたいことがあって……一緒に来てくれる?」 「……!もちろんだ」 ロシェも喜んで私に続いてくれる。しかしロシェの特性上王城の本邸とはいかないかも……そう思っていれば、私たちの滞在する離宮に客人が姿を見せた。 ――――いや、それはもうこの城の主である……。 「お父さま」 「……あぁ、ちょうど良かった。私もシャーリィと話がしたかったのだ」 考えていたことは父娘ともども同じだったらしい。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加