祝杯

1/2
前へ
/27ページ
次へ

祝杯

――――その日、ローゼンクロス城には人間の国からも出席者が集う。 まぁ、いつものことながら、ロードは特別な存在なので、ここまで挨拶にこれた人間はお父さまやごくわずかだが……。 「シャーリィ、改めておめでとう」 「はい、お父さま」 こうして晴れの舞台をお父さまと迎えられたことが何より嬉しい一度目は嫁がされただけで、こんなお披露目の場にも出してもらえず、お父さまも国を離れられなかったけど、今は違う。 ちゃんとした後継者もおり、留守を任せられる臣下もいる。 これからはお父さまをこうして招くこともできるし、あまり公には来られないけど、里帰りも楽しみたい。やりたいことがたくさんありすぎて困っちゃうほどね。 お父さまと別れると、さすがはお父さま。ロードと挨拶できる人間なんてそうそういないから、他の国の主賓に囲まれていた。そもそも宰相時代から有名だったからなぁ。 そして他の人間の国の主賓ちはロードに挨拶できないのでどうするのかというと……。 「その他の客はロイドがもてなすからいい」 「うん、ロイドがいてくれて良かったわね」 無事にロシェがロイドを後継者としたことで、人間の客の挨拶はロイドがジェーンと共に受けてくれている。 今ではロイドの血を受け入れ完全なヴァンパイアとなっているけれど。 「ロイドならまだ、ましなのよね」 もちろん狂犬モードの時はヴァンパイアでも逃げる……と、以前マリカ先輩が面白そうに話していた。……うん、面白そうに。本当に書庫の先輩たちって底知れないわ。 「ロードはロードを継いだ時に……そうだな……ヴァンパイアたちの主としてヴァンパイアたちの遺伝子に刻まれる」 ロードはロードで、特別な特性があるようだ。 「じゃぁロイドが継いたらそうなるのね」 「そうだ。だが……」 ロシェが少し考え込む。 「どうしたの……?」 「早めに引退してシャーリィと気ままに隠居案を出したら断られた」 途端にしゅーんとしないでよ……もう。でもロイドは多分……参謀のような立場も好きと言うか……ロシェが近くにいないと荒れるタイプの狂犬だもの。 「でも、ロシェがロードでいてくれることは、私にとっても誇りなのよ」 どんな理由であれ、ロシェの過去に何があろうと、ロシェが選んだことで今の平穏があるのよ。でなきゃヴァンパイアと人間が共に楽しむパーティーなんて迎えられないし、お父さまに私たちの婚姻を祝ってもらうこともできなかったもの。 「シャーリィがそう言ってくれるなら……ロードも悪くはない」 「そう?嬉しいわ」 「これからもずっと一緒だ」 「うん」 そう頷けば、自然と唇が重なりあった。 「できれば、シャーリィの血も吸いたい」 そんなことをこっそり小声で伝えてくる。 「それは夜よ」 やはりロシェもヴァンパイア。ヴァンパイアとしての糧は必要らしく、最近はそうやってねだってくれる。ただでさえパーティーの前は首筋に牙痕を付けると私がドレスを着られなくなるからとロイドに禁止されているのだ。こちらの世界でのドレスは首筋はわりと開くタイプが多いのよね。 ここは前世の知識やらを活かして首もとを隠すドレスを提案してみるのも……いいかもしれない。 しかし、このパーティーが終われば暫くは落ち着くはずだし、ご褒美をあげなくちゃね。 「それまではいいこにしておくこと」 「うむっ」 そしてロシェの背後に、嬉しそうにはためくしっぽを見たような気がした。 【完】
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加