ヴァンパイアロード

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ヴァンパイアロード

グレイの後に、とぼとぼとついていく。それでもグレイは私に歩幅を合わせてくれている。 建物の内部に入れば、その内装を何処かで見たことがある気がする。 確か……ヴァンパイアの国に来てから。アッシュの屋敷ではないとすれば……他に私が行った場所は……輿入れの挨拶で参上した……ヴァンパイアの国ローゼンクロス城……! それに気が付いた瞬間、目の前に現れた青年にピタリと脚を止める。 20代半ばに見えつつも、その年齢はおよそ300。黒髪に赤い瞳、色の抜けたような肌。 あの容姿の整ったアッシュよりも、さらに人外の理のような美しさを持つ……在位200年の吸血鬼の王。 ――――ロシェ・ローゼンクロス。 彼はこの城の主であり、すべてのヴァンパイアたちが傅く王……ロードである。 その実態は謎に包まれており、人間の前にはほとんど姿を見せない。 私でも、顔を合わせたのはこの国に嫁いできて、城に挨拶に赴いた時だけである。 それほどまでにヴァンパイアの王は神秘の存在であった。 「こんなところに、何故人間の娘を連れてきた」 王がゆっくりと口を開く。私のことは、ただの人間の娘と称する。アッシュの妻として挨拶したことを覚えていないのか。それとももう妻ではないことを、王は知っているのだろうか。 ――――だがどうしてか、ヴァンパイアハンターであるグレイと王はどこか親しげな雰囲気を醸し出す。一体どういうこと……? 「お前は前に俺に言ったな。責任を取るために、俺の願いをひとつ、何でも聞くと」 グレイの言葉に、一瞬ぽかんとする。ヴァンパイアの王が、ハンターであるグレイの願いを何でもひとつ聞く……?それを呑んだ責任って……一体何……? 「あぁ」 王もまた、グレイの言葉に頷く。 「……ならば、ロシェ」 グレイが王の名を、呼び捨てに呼んだ……っ!?絶対的な存在であるヴァンパイアロードを、そう呼べるグレイって一体何者なの……。 「この娘、シャーロットをお前の伴侶にしろ」 『……は?』 王と見事に言葉が被った。それほどまでに衝撃的だった。 「何でも言うことを聞くと言っただろう。だから娶れ。それだけだ」 いやいや、それだけって……何を言ってるの……!?王には伴侶はいないはず。それは何百年もそうだったようで、恋人もいなければ、婚約者もいないというのは、人間の間でも噂が広まるほど。 無理矢理娘を王に嫁がせようとした人間の王が、ヴァンパイアロードの怒りを買い粛正されたとも聞く。 それなのに……グレイは何てことを……! でも確かに王の妃ならば……アッシュだってかなわない!絶対的な庇護が得られるだろう。 確かにお膳立てには最適だ!しかし、そんなことをすれば、グレイが王の逆鱗に触れるのでは……!? 「……それでグレイは納得するのか」 「するが……?」 しかし王は意外にも、グレイに縋るような声を出す。この2人の関係性も気になるが……。 「……分かった」 今、王は何と……?え、するの?結婚するの……っ!? 「娘、お前は今から我が伴侶だ」 いいや、本当に!?以前激怒したって話を聞いたけど、グレイの願いのためなら本当に私を娶るの!? 「だが、これはあくまでもグレイの願い。私はお前を愛することはない」 つまりは契約結婚みたいなものね。 ギリと私を睨んでくるロード。でも大丈夫よ。前世でも犬を飼っていたけど、何だかその犬に似てるのよね。最初はこんな風に警戒していたけど、徐々に懐いてくれて、しっぽをふりふり……いや、ヴァンパイアロードをそんな風に見たら不敬かも知れないわね。 「構わないわ。その代わり、私は私で好きにやらせてもらうわよ」 「……グレイに迷惑がかかるようなことは許せない」 そこはグレイなの?なんかこの王……グレイに懐いていない……?気のせいかしら。 「グレイも賛同してくれたわ」 「止めはしない」 そのグレイの言葉はまさしくグレーゾーンだが。 「……なら、それでいい」 「じゃ、契約成立ね!」 こくりと頷けば、ロードがふいと顔を反らす。 しかし……ちらり。 時折こちらをちらりと見てくるんだけどこのヴァンパイア……! ちょっと興味を持ち始めたわんこみたいな反応し始めたぁ――――っ!?
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