妃の部屋

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妃の部屋

開け放たれた妃の部屋には、侍女長とその取り巻きの侍女たちがいた。 しかも……明らかな豪華なドレスや宝石を広げてうっとりとしていた侍女長、それを囃し立てながらものを広げている取り巻きの侍女たち。 「一体何をなさっておいでで?」 きっと分かっていただろうに、ロイドは一応彼女たちの言い分は聞いてくれるらしい。 しかし追い詰められた彼女たちは、ロイドと一緒に来た私にキッと目尻を吊り上げ、侍女長が私を指差す。 「こ……これは……っ!そうよ、その人間の女が言ったのよ!」 はい!?私のせいにする気!? 「だ、だから私たちは……ここで」 「事実ですか」 「まさか。彼女たちが私を粗末な部屋に監禁して、自分たちは本来の私の部屋で勝手に好き放題していただけでしょう?」 「……だ、そうです。まぁかくいう私も知っていましたが」 まぁ、監禁部屋の外に来てくれたのもロイドだし。 「でも、何でとっとと追い出さなかったわけ?」 彼女たちは明らかに業務外のことに手を出している。侍女長がヴァンパイアロードの妃気分であったとしても、妃ではないのだからできるはずもない。 「あなたがここにいないと、言い逃れをされることは分かっておりましたし、ただ追い出すだけでは、ヴァンパイア界での貴族からの反発も生みますから」 「完膚なきまでに追い出す理由がないとってことね」 「そうです。そしてあなたは人間の妃ですから、あなたたちが監禁したという理由だけで追い出すには足りません」 人間の妃ってだけでも軽視されるのね。人間の血を糧にしているくせに。いや……むしろ餌になる人間なんて、この上位種たちは好きなだけ手に入れられるものね。 「そう言うわけですから、あなたたちの嘘はもうバレています。無断で妃の部屋を私用で使った以上は追い出されても文句は言わせません」 「な、何ですって!?う、嘘なんかじゃないわよ……っ!あんた、ヴァンパイア貴族の私の言うことよりも、人間の妃なんかを信じるの!?」 「逆にあなた方を信じる理由がどこに?私はロードの侍従長ですので」 「何よ!もともとあんたなんてのが侍従長なのも気に入らなかったのよ!混血のくせに!」 「そうよ!」 「そもそも混血のくせに偉そうに!」 え……ロイドが……混血……? 「今はロードと契約した完全な吸血鬼ですが」 ロードと……そりゃぁそうか。ロードの侍従長、側近なのだ。混血のヴァンパイアであるロイドが主従の契約を交わしていても不思議ではないわよね。 しかし……それだけで見下すと言うのはどうなんだか。少なくともロイドは仕事もこなさない、主であるロードの面目を丸潰しにするあなたたちよりも優秀よ。 ――――何か出汁に使われた感はあるけれど。 「だからって、もともとはどの馬の骨とも分からない……」 そこまで言いかけて侍女長が突然口を噤む。後ろに何か大きな何かを感じて振り向けば、ロードが立っていた。 「そうか……私がどこの馬の骨とも分からないか」 侍女長も失言に気が付いたと言うことか。ロイドがロードと契約したのならば、ロイドに元々半分だけ流れていた人間の血はロードの血となっているはずである。 「そ……それは……その、契約する前……のことで……」 侍女長が必死に訴えるのだが。 「いや、意味は同じでしょう」 うん……?契約する前からってのは……どういう意味なのだろうか……? 「いずれにせよ、不愉快だ。貴様らはとっとと城から出ていくがいい」 「で、ですが、ロード!」 「くどい」 その瞬間、空気がガラリと変わった気がした。 「出ていけ」 「……っ」 侍女長たちはガクガクと震えながら、小走りで部屋を出ていく。 「さて……あなた平気なのですか?」 侍女長たちが去って、ロイドが意外そうに私を見る。 「え?元気はまだまだいっぱいよ」 こんなんで消耗していたら、貴族令嬢もサレ妻もしてられないわ。 「そう言う意味ではなく……取り敢えず、この部屋は別のものに清掃させますので……奥さまはどうぞ夫婦の寝室でお休みください」 そりゃぁ侍女長たちが散らかした部屋でそのまま寝るのは抵抗があるけれど。 「分かったわ」 まぁ、こうなったからには仕方がないわよね。 「部屋は隣で、そのまた隣がロードの私室です」 「そうなのね。じゃ、私は夫婦の寝室を使わせてもらうってことね」 ロードは長らく妃がいなかったわけだし、きっと夫婦の寝室も使ってないんだろうなぁ。 ひとりは少しだけ寂しいけど、未婚令嬢だった時だって、ひとり部屋だったから平気よ。 しかし……。 隣の部屋のドアノブに手を掛けた時である。 「……」 ロードも……立ち止まるの……? 「あなたは隣の私室で寝るんでしょ?別についてきてもらわなくても平気よ」 だからあなたはあなたで寝てもらっていいのに。 「私もここで寝る」 「……えと、でも、それなら私と一緒に寝ることになるのよ?」 「そうだが?」 「そうだがって……その、いいわけ!?」 「ここは私の城なのだから、どうしようと勝手だ」 そりゃぁそうだけど……でも、契約結婚なのだから、別に隣に寝たって何もしてこないわよね……? 恐る恐る部屋に入れば、やはりロードも付いてくる。 「私はこっちでいい?」 大きなベッドの片側に腰掛ければ、ロードが反対側に登ってくる。どうやら、いいみたいね。 「私はもう寝るけど、ロードも……」 そう、私もベッドに登り、掛け布団を手繰り寄せようとした時だった。 行きなり身体が押し倒されたかと思えば、ロードの顔がすぐ上にある。 「あの……えぇと……?」 まさかいきなり吸血とか言わないわよね!?契約結婚には吸血契約も含まれていたの!? 「ロードじゃない……」 「はぇ?」 「ロシェだ」 それって、ロードの名前では……? 確かヴァンパイアの間では、ロードの本名はとても特別なもの……だったはずだけれど。契約結婚相手の人間の小娘が呼んでもいいの……? 「あの……でも」 「ロシェと」 うぅ……っ、何かしらこれ。威圧ではないのだが、何だか仔犬みたいな訴え。中身も存在感も狼ではあると思うのだが。 「……ロシェ」 「それでいい、シャーロット」 「あぁ、うん」 私の名前も呼ぶの……?夫婦ならばそれでいいとは思うが……愛するつもりもなと言われたのに……変なひとね。 そして私が名前を呼んだことに満足したのか、ロード……ロシェは私の上から退いて、隣に横になって背中を向けた。 どうやら……ヴァンパイア的に襲うつもりは……ないみたいだけど。 私もロシェと背中合わせに横になった。 ――――こんなの、前の結婚の時にだってなかったのに。調子が狂ってしまうわ。
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