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プロローグ
Cardonal サボテンヶ原
夢の中を狼が走る。
夢の向こうで銃撃音が響き、
灰褐色の獣は地卓に倒れた。
狼の暗い血が、乾いた大地を
蛇のように這う。
血の流れを辿っている
僕の目が、横たわる野獣の頭部を
とらえた。
と…それは〈彼〉の貌だ。
〈彼〉の側に近づきたいのに、
僕は空を翔る鷹の眼となって、
その場を離れた。
風にのって教会の鐘の音が
聞こえる。
あれはヤキ族(☆)の墓地だ。
サボテンヶ原
丘陵と渓谷をいくつか越えると、ベラクルスの海岸。
さらに下って
カンクーンの海辺へ。
〈彼〉は北にいるはずなのに、
僕はなぜ南に向かっているのか？
南方の、あの濃い緑は
ラカンドン・ジャングル…
密林の繁みにもぐり込み、僕は、
ジャガーの瞳の向こうに、
ラカンドン族(☆)の若者の姿を
認める。
なめらかで、しなやかな
褐色の肌。
〈彼〉だ！
僕の意識が喜悦の波となって、
僕を裡から打つ。
「兄弟…」
と、呼びかけ〈彼〉がこちらに
顔を向けてくれるのを待つ。
若者はゆっくり振り返った。
１
☆ヤキ族
メキシコ北西部ソノラ州を流れる
ヤキ河流域に住む
農耕・狩猟種族。
日本人の末裔説がある。
苗字を〈モリ〉と
名乗る者がいる。
ワラジをワラッシュという。
米を水で炊く。
など、日本の文化・習慣に影響を
受けたと言われる。
☆ラカンドン族
メキシコのチアパス州南東の
熱帯雨林に住む
マヤ系の少数民族。
メキシコ先住民族とマヤの子孫。
自給自足の生活・狩猟。
マヤの信仰を守っていた。
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