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「ごめん」
紫青が落とした声は、なぜかこの雨音にも負けずしっかりと私の耳に届いた。
あの日、紫青が伝えてくれた私への気持ちとは違う。
紫青の方へ振り返ると、私に体を向けまっすぐ見つめる瞳と目が合った。
もうこんな風に彼の視線を独占すること、ここ最近はなくなっていた。
「たぶん、陽花が考えてる通りだと思う」
分かっていたのに、いざ現実になるのだと思うと、怖くて仕方がない。
「陽花を好きだったことに嘘はないけど、今の俺はあの人に気持ちが向いてる」
懸命に紫青を見上げる。
なにか言わなきゃ、と思うのに、口を開けば想いも涙も溢れてしまいそう。
ただ、ただ、紫青の言葉を受け入れていく。
「こんなこと、陽花に言うのは間違ってると思うけど、入学してすぐにあの人を好きになったんだ。ごめん、本当にごめん」
そんなに謝らなくてもいいよ。
紫青の気持ちは、痛いほど分かったから。
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