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「……私、冷たい人だったみたい」
「え?」
ようやく口を開いた私に、意図が分からず驚く紫青。
「紫青が言うような、あったかい人なんかじゃない。だから、紫青が他の人を好きでもなんとも思わない」
「陽花……」
……ううん、本当に好きだったよ。
本物の恋を忘れるために、選ばれたのが友達でも何でもない私だっただけ。
だからね、私は潔く身を引くから。
「ごめん、陽花。自分が嘘は吐きたくなかったからって、陽花にそんな嘘吐かせてごめん」
紫青は苦しそうに懺悔すると、雨に濡れるのも構わず私を抱きしめた。
ずっとずっと欲しかった温もりに、顔が見えないからと最後に私も思いきり抱きしめ返した。
「嘘なんて吐いてない。もう行って、紫青」
温もりが雨に流されてしまう前に、私から離れる。
「今までありがとう、陽花」
紫青は私の気持ちを汲んでくれたのか、それだけ言うと振り返らずに去っていった。
明日からはこの温もりも、紫青の心も全部、私じゃないあの女のものだから、
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