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「……そんなに、変わんないよ」
「そうかな」
「切ったって言っても、1、2ミリだし……」
「女子の前髪の1、2ミリって、結構大きいもんじゃない?」
「そ、そう?」
ごく自然に会話が続いて、緊張で声が上擦りかける。
ほんの少し、前髪を切ったって気づく人なんて誰もいなかったのに。
家族も、幼なじみの親友も、もちろんクラスメイトだって。
(……どうして、そんなところに気がつくんだろう?)
高校に入学して2ヶ月。
人見知りの私は、毎日のように降り続く雨が心を塞ぐ季節になっても、このクラスに馴染めていない。
クラスメイトで唯一中学が同じだった目の前の彼は、中学の頃から男女ともに友達が多い、謂わゆる "陽キャ" という人種なのだろう。
関わりのなかった私でも知っている。
でも、決して派手に目立つことはしない。
そのくせ、誰に対してもするりと懐に入り込む不思議な親しみやすさがある。
日陰の身の私には、とてもじゃないけど眩しすぎる存在だった。
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