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「三好さんとはずっと話してみたかったんだよね。いつもはほら。俯くとちょうど前髪で目が隠れちゃうんだけど、今日は違ったから」
「え?」
今まで接点のなかった私の名前を覚えられていたことに驚いて声を上げると、彼はそれを違う意味に捉えてしまったみたいだ。
「あ、ごめん。気持ち悪かった?」
「え、いや……そうじゃ、なくて」
そういう返しをされるとは思わなくて、普段人見知りで人と話すことが少ない私は上手く言葉が出せない。
焦りと同時に、だけど、胸にひとつ落ちた温かさがじんわりと広がっていくのが分かる。
クラスになじめていない私のような存在にも、ごく当たり前に慮ってくれる。
それに気がついてしまった。
「名前、知ってたんだ……」
「知ってるよ」
ぽつり、と零した声も、彼は大事に拾ってくれるんだ。
「同じクラスだろ?中学も一緒だったじゃん。下の名前は陽花だよね?穏やかで心があったかそうな三好さんによく似合ってる」
そんな風に言ってくれる彼こそが、私なんかよりよっぽど陽が似合う人だった。
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