1/1
前へ
/10ページ
次へ

 晴れた空の下、とろとろとした穏やかな流れの川を、小舟が下っていく。  つるりとした仮面をつけた若い男が漕ぐ、年季の入った小舟だ。そこには黒い花嫁衣装を纏った女が乗っていた。  黒い着物を黒い帯と黒牡丹の帯留めで飾り、黒い綿帽子で顔の半分を隠している。真っ白い肌の上に、椿のように赤い紅が浮いていた。 「おお、黒無垢様が流れてゆかれる」  その様を見送る誰もが葬式のように黒い着物を着て、両手を擦り合わせて天に拝んでいる。  陰鬱な群衆に見送られながら、黒無垢の女を乗せた舟は進んでいった。  ゆらゆらと。  さらさらと。  不穏に揺られながら、流れてゆく。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加