9月17日火曜日③ 【 ? 】

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9月17日火曜日③ 【 ? 】

「なんだかものものしいね」  二人が後ろのドアを開け、アランシオンと母親が後に続きます。  ドアを閉める時、ディアファンははるかちゃんの方に視線を投げました。  しかし、はるかちゃんは児童を落ち着かせるのに忙しく、こちらを見ることはありません。  4人が校長室に入ると、6年の子とその保護者も来ていました。  6年の子のとなりにアランシオン君が座り、その後ろにそれぞれの保護者が立ちました。  巡回員の二人は窓際に行き部屋の中をみまわしています。  校長が入ってきてコホンとひとつ咳ばらいをしました。 「これで全員揃っていますか? 透明な皆さんも揃っていますか?」 「はい6名全員おります」 「では始めます。先ほど授業中に教室を飛び出した4年生の石田亜子ちゃんが非常階段から落ちて大怪我を負いました。すぐに病院に運びましたが、頭を強く打っていて、少し朦朧としている状態です。病院には担任の井上先生と学年主任の青田先生が行っています。ご両親には連絡がとれましたので、病院に向かっておられると思います」  ビクッと肩を震わせたのはアランシオン君で、その手を6年生の子がギュッと握りました。 「井上先生から事情は聞きましたが、電話での報告でしたので詳細は分かりません。そこで皆さんに集まっていただいたということです」  4年のアランシオン君に付き添っていた母親が声を出しました。 「詳しい状況とはどういうことでしょうか? アランシオンが泥棒扱いされたことを説明すればいいのですか?」  隣に立っている6年の子に付き添っていた父親が嗜めるように言います。 「そんなにケンカ腰でいうものではないよ。すこし冷静になりなさい」 「でもあなた、アランシオンは何もしていないのに泥棒扱いされたのよ? でもこの子はとても冷静に違うことを証明してみせたわ。それで言い返せなくなったその子が教室を飛び出したのよ?」  どうやらアランシオン君と6年の女の子は姉弟のようですね。  校長が口を開きました。 「ええ、井上先生からも同じように聞いています。私がお伺いしたかったのはその後ですよ。アランシオン君も教室を出たと井上先生は言っています。そこはどうなのですか?」  ディアファンが声を出します。 「彼は井上先生の引き止める言葉でその場に残りましたよ。彼女を追ったのは私です。巡回員のディアファンと申します。しかし、彼女は一目散に階段を駆け下りていきましたので、私は追うことを断念してすぐに教室に戻りました」  校長がフッと溜息を吐きながら言います。 「なぜそのまま追わなかったのですか?」 「仰っている意味が解りません。私は透明な子達を守るための巡回員としてここにきています。違いますか?」  校長が言い淀みました。 「え……ええ、確かにそうです。行動が間違っているとは言っていないのですが、そのまま追っていてくれたらあの子は事故に遭わずに済んだと……」  今度はランプシィーが声を出します。 「それは不透明な皆さん方の範疇でしょ? それこそ井上先生が追うべきでしょ?」 「それはその通りなのですが……」 「他にも何かあるのですか?」  父親が聞くと、校長は何度か浅い深呼吸をしてから言葉を発しました。 「はっきり申し上げますね。石田亜子ちゃんは誰かに押されて落ちたと言っています……押した者の姿は見えなかったと……」  ガタンと音がしてアランシオン君が立ち上がりました。 「証拠は? 校長先生、証拠はあるのでしょうね? 僕たちを疑うだけの確固たる証拠が!」  その横で姉も立ち上がって校長を睨んでいるようです。   「証拠なんてないよ。石田さんが言っているだけだ。だから君たちに事情を聴いているんじゃないか」  校長先生もイラついているようですね。 「ではどうして僕たちだけを呼んだんです? 同じクラスの子も教室を抜け出して後をおったかもしれませんよね? どうして僕たちだけが疑われなくちゃいけないんでしょうか」 「それは……」  沈黙が流れ、気まずい雰囲気になってしまいました。  それを破ったのは教頭先生の一言です。 「では違うと言うんだね? アランシオン君も石田さんの背中を押していないし、巡回員の方も、追って行って押したということはないと」  校長が慌てて教頭先生の方を向きましたが、すべて言い切った後でした。   「もう結構です。警察に連絡しましょう。傷害事件としてしっかり調べてもらいましょうよ、校長先生。白黒はっきりさせないといけない案件です」  声を出したのはランプシィーでした。  ディアファンも頷きながら続けます。 「この学校には防犯カメラが設置されています。赤外線カメラ機能も付いていますよね? ボクたち透明人間が来ることになってそういう機能のものが設置されているはずです。だからボクらは貼りたくもない赤外線反射フィルムを腕に貼っているのですからね」 「あ……いや、別にあなた方を疑っているわけでは……」 「いいえ、絶対に詳らかにしていただきます。それが終わるまでは登校しません。児童も保護者も巡回員も」  強い口調で言ったのは二人の子の父親でした。  教頭は顔色を悪くしてブツブツと何かを言っていますが、校長はぐっと唇を引き結んでいます。   「わかりました。上部には私の方から連絡を入れておきます」 「そうですか。では私の方で警察に電話をしましょう。それと同時に弁護士にも連絡を取ります」 「あ……いや、警察への届け出は少し待っていただけませんか?」  慌ててそう言ったのは教頭でした。
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