新たな選択

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膝の上に猫様。 動けないのは確定。 コップの水は水道水。 ぬるいが飲めるのはこれだけ。 問題はコップの底の黒い粒。 ゴマなら余裕で飲める。 虫の卵なら断じて飲めない。 ゴミなら飲めそうだ。 2/3の確率で飲めるのだが、1/3の確率でヤバイ。 ちなみに私は、だめな道を選びたがる人生の方向音痴である。 1/3を引き当てる確率は、事実上の2/3より高いとさえ言える。 そこで重たく虫の卵説がのしかかってくる。 体内で虫が孵化した場合、私は死ぬだろうか。 ただの一個の卵だ。 胃酸が溶かしてはくれないか。 孵化しても胃酸強しである。 貧弱な虫ぐらい溶かせないか。 仮説1。 飛ぶ系の虫。 胃酸を避けて口から出てくる。 出て行ってくれるならそこで不安は消えるが、喉を通過するとき痛いかな。 仮説2。 長い系の幼虫。 胃の中に住むの? アニサキスみたいにならない? 胃壁に穴を開けない? それより胃酸が強い? 良くない想像しかできないんですけど。 これは一番ヤバイやつ。 仮説3。 歩く系の虫。 胃酸の海で歩いていたら、やがて胃酸が勝つだろう。 でもそれまで胃の中を歩かれる不快感は記憶に残りそう。 新しい卵を産みつけられたら、私は培養装置になりかねない。 歩く系も御免だな。 以上の仮説では、1/3で虫は出て行き、1/3で虫は溶かされ、1/3で胃に穴が開く。 でも溶かされる予想は希望で、培養装置になる可能性も否めない。 また飛ぶ系の虫が出て行く保証もない。 もう一度言うが、喉が乾いていて、今すぐ水が飲みたい。 その水には黒い粒。 ゴマなのか卵なのかゴミなのか。 猫様は熟睡なさっている。 どうしよう。 ふとひらめいた。 人間には臼歯がある。 すりつぶせばいいんだ。 そうすれば虫は孵化しない。 が、虫の卵を噛んで味わう? それもホラーだ。 しかし現状、選択肢は他にない。 怖い想像は得意で、口の中に何万匹もの虫が這い回ることも考えた。 たった一粒の黒いものに苛まれてすでに5分。 一生分の虫を想像したかもしれない。 ふと当たり前なことに気づく。 黒い粒は沈んでいる。 私は喉を湿らせるだけでいい。 わざわざ黒い粒まで飲まなくてもいいんじゃね? 飲めるぶん飲めばいいんじゃね? でもまた想像してしまう。 虫の卵から見えない幼虫が溢れ出てる説。 ウイルス的なイメージになっちゃうと、最悪の想像しかできなくなった。 猫様は寝返りを打った。 私は喉が乾いているが、水を飲めず、黒い粒を見つめて、新たに湧いた嫌な想像に苛まれていく。 あとは勇気だけ⋯⋯。 (えいっ!)
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