第15話 行くしかない!

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第15話 行くしかない!

「なんか……さっきよりも大きくなってませんか?」 「魔樹の成長スピードは速いからな。ほら他人の子どもも成長が早いっていうだろ?」 「比べる対象、違うくないですか? 大丈夫ですか? 睡眠不足で魔樹が子どもに見えたりなんて――」 「見えてねえよっ‼」  再び結界内に侵入した私たちの前には、先ほどより二倍近くでかくなった魔樹が立っていた。触手の数も増えている。  先ほどは神官達を引き連れていたけれど、結界の維持のほうに回し、アリエスだけがサポート役としてここに来てくれた。  正直、先ほどのよりも大きくなった魔樹に、少なくなった人数で対抗するのは難しい。  だけど、アリエスはどこか自信たっぷりだ。 「ふふっ、天才は能力をひけらかしはしない。本気になった俺の力を、その目に刻みつけるがいい」  と右手で左手を押さえるような厨二病ポーズをとり、謎キャラをぶちかましてくる。   反応に困る。  この人、たまにキャラブレるよなぁ。  だけど、 「ってことだから、お前は安心して自分の仕事に集中しろ」  自信に満ちあふれた笑顔を向けられると、無条件で信じたくなるのが不思議だ。  とりあえず、三十二歳のおっちゃんが、恥ずかしいポーズをしているから、慰める意味でも頷いてあげておこう。  前の前にそびえ立つ魔樹を見つめる。  実は根元に水をまいたとき、少し気になっていたことがあった。  魔樹の種が植物におちると、その植物に寄生して大きくなる。寄生した植物の栄養を奪い取り、成長した魔樹の栄養を植物が吸い取って、あんな醜悪な形になるのだ。  ということは、今目の前にある魔樹のどこかに、寄生している魔樹本体があるはず。魔樹に寄生された植物だけを枯らすのではなく、魔樹本体も枯らさないと駄目なんじゃないかと。  先ほど、神殿で枯らした魔樹は小さかった。だから上から水を振りまいただけで、寄生元の植物と魔樹本体に水がかかり、枯れたんだと思う。  あくまで仮説だし、さっき枯らした魔樹よりも大きいから効果無かったんじゃないか説もあるけれど、試してみる価値はある。  万が一、失敗したっていう一つのデータが、アリエスの研究に増えるだけなんだから。  きっとそれだって、役に立つはず。  彼には、事前に私の仮説を伝えている。  作戦は単純だ。  アリエスが魔樹の動きを止める。  そして根元に水をかけたあと、魔法で宙を浮いた私が、魔樹本体、見つからなければ上から水を振りかける。それだけの簡単なお仕事だ。  まあ、魔樹の動きを止めるっていうのが一番危険で難しいところなんだけど。  でも、先ほどのアリエスの言葉を思い出す。  自信に満ちた、そして私に期待ではなく、信頼をしてくれる彼の顔を。  ……よし!  アリエスの魔法が発動する。  先ほどよりも太く、長い鎖が何本も現れ、魔樹の動きを封じた。  正直、先ほど一緒に動きを封じてくれていた神官達の行動を一人でこなしている。  これが怠惰な上司の本気なんだと思ったけど、彼の苦悶が浮かんだ表情を見て気を引き締める。  多分、一杯一杯だ。私のために、無理をしてくれているのが伝わってくる。  私の気持ちを察したのか、真一文字に結ばれていた彼の口角が上がった。魔樹に顔を向けつつ、瞳を細め、視線だけがこちらを向く。 「こっちは気にするな。お前は……自分が思う行動をしろ。飛行の呪文は覚えているな?」  大きく頷くと、アリエスも満足そうに頷き返した。 「……なら、行ってこい」 「はい」  次の瞬間、私は全速力で駆け出していた。  元の世界に居た頃は、できるだけ体力をセーブして生きてきた。こんなに一生懸命走ったなんて、最後は何時だろう。こっちに来てからも、電動キックボードで楽してたからなぁ。  一気に肺が苦しくなる、喉に痛みが走る。  足がもつれそうになる。  だけど急激な運動で悲鳴を上げる身体とは正反対に、心は晴れやかだった。  魔樹の根元によると、私は銀じょうろを傾けた。  先ほどと同じく変化は見られない。だけど私は気に留めずアリエスの元に戻ると、彼の横にあるタルから水を掬った。銀色のじょうろの中が、再び透明な水で満たされる。 「この身よ、上へ上へ……高く舞い上がれ!」  呪文を唱えると、首にかかった魔石のネックレスが熱を帯びた。身体が見えない何かによって上に持ち上げられる浮遊感が身体を襲う。  意識を行きたい方向へ向けると、そっちに引っ張られた。  コントロールはまだ完全じゃないけれど……行けそう。いや、行くしかない!  魔樹の上に向かう。  魔樹を見下ろすと、四方八方に広がった枝の中央に、赤黒いヌメヌメした大きな塊を見た。そこから、小さな触手がボコボコと生えている。  気持ち悪すぎる光景に、ムカムカと喉の奥から何かがこみ上げてくる。  その時、視界の端に黒い影が横切るのが見えた。  咄嗟に身をよじって避けたけれど、それに僅かに当たってしまったのか、上着が擦れるように破れると同時に、胸を熱くしていた魔石が弾け飛ぶのを見た。
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