第9話 魔樹

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第9話 魔樹

 薬草園を出た私たちは、神殿内を進んでいった。  アリエスの姿を見た神官たちが会釈をしているが、彼はそれに応えず、ずんずんと歩みを進めていく。  さすが背の高い大人の大股。小柄な私は、小走りしなければ付いていけないスピードだ。  そうして辿り着いたのは、入り口を神官兵によって守られた、大きな広場だった。  とても広い。  その真ん中にあるものを見た私は、目を瞠った。  広場の真ん中に、真っ黒な半球体が地面から突き出ていた。  その近くには三人の神官がいて、手を広げて球体を見つめている。半球体は丁度、神官たちの腰辺りまでの高さまであった。意外と大きい。  異様な光景に、思わず質問が唇から洩れる。 「アリエスさん、あれは何ですか?」 「ああ、お前は初めてだったな。あの中には、魔樹化した植物が閉じ込められている。球体の結界に封じ込め、吐き出す瘴気が外に出るのを神官たちの魔法で封じているんだ」 「じゃああそこにいる神官たちは、ずっとここで……」 「勿論交代制だけどな。でもかなりの負担なはずだ。しかし魔樹となった植物を完全に処分するには、時間と労力がかかる。だから一定量が集まるまでは、ああして結界で封じ込めているんだ」  魔樹化した植物を処分する方法は、以前イリーナから聞いた。  浄化の炎で三日三晩、神官達総出で焼き続けるのだと。  でも、何故こんな場所に私を連れてきたの?  不思議に思っていると、アリエスが神官たちと何か言い争っている。 「だ、駄目です! いくらアリエスさまのご指示でも……」 「ヴァレリアには、俺から説明する! だから頼む!」 「しっ、しかし、もしホノカさまに何かしらの影響が出れば、我々が責任を問われる立場となります!」 「大丈夫だ。結界内に入れるのは、手だけだから問題ない」  ……え?  結界内に手を入れる?  あの真っ黒な、絵に描いたようなヤバさをまとったあそこに、手を、いれ、るってこ……と?  サーっと全身から血の気が引いた。  いや、あかんあかんあかんあかんっ‼ 絶対やったらあかんやつ――――っ‼  何させようとしてんの、あの馬鹿上司は‼  そうしている間に、アリエスと神官たちの言い争いに決着が付いたみたい。神官達のガックリした様子を見る限り……やば、アリエスが近付いてくる!  逃げ出す準備を―― 「ホノカ」  って、早すぎ――――っ‼ 「ひやぁっ‼ む、無理ですっ! あんないかにもやばげな中に手を突っ込ませるとか、何考えてるんですか‼ アタオカですか⁉ 人でなしっ‼」 「ちょっ……暴れるな! ちゃんと話を聞けっ! これは……この国、いや、魔樹に生活を脅かされ続けてきた人々の希望になるかもしれないんだ‼」  彼の真剣な言葉に、私は暴れるのを止めた。アリエスが、先ほどの枯れた雑草を突き出した。 「この草は、魔樹化しかけていたんだ」 「えっ? そ、それってやばいんじゃ……」 「ああ、もの凄くな。きっと枯れていなければ、数日で完全に魔樹となって薬草園内は瘴気で一杯になっていただろう。植物は魔樹の種に寄生された瞬間から、浄化の炎で焼くしか駆除方法がなくなる……俺の言っている意味が分かるか?」 「えっとつまり……それって……」  私の言葉に、アリエスは大きく力強く頷いた。 「神官たちがよってたかって三日三晩焼き続けなければならないものを、お前は水をやっただけで枯らしたんだ」
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