自堕落貴族奮闘記

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ルーファスが王となり、貴族などの階級制度は本当に廃止された。 最初は貴族たちは当然渋っていたが、数の上で勝る民衆が革命を起こす可能性を説いたら渋々ながら納得した。 とはいえオズが言っていたように貴族たちの土地や資産を全て分配するようなことはない。 大きな集団をまとめるには指導者が必要で、ただその役割は貴族ではなく全て選挙で選ばれることが決まった。 税制が変わり貴族の負担が大きくなったため少しずつ格差は縮まっていくが、いきなり大きな変革をしてしまうと国が荒れると判断したためだ。 いくら貴族の方が数は少ないとは言っても金がありある程度の武力も備えている。 国で戦争が起こればその代償は全て国民へ返ってくる。 そうなれば他国に隙を見せることになり最悪戦乱を巻き起こしてしまうかもしれない。 ルーファスが王であとは適宜必要な人材を必要な場所に配置していった。 最初は皆それに戸惑っていたが月日が経つにつれ慣れていった。 ルーファスは王ではあるが権力はほとんど持っておらず基本的に民衆の意見で国の方針が決まっていく。 「俺とロイが同じ立場で付き合えるようになるとはな」 「そうだね。 でも酒池肉林は本当に残念だった・・・」 「もうそれを言うなって。 ・・・ん?」 そのような会話で笑っていたその時、みすぼらしい姿をした男が立っていることに気付く。 フードを目深に被り髪も髭も伸び放題。 ルーファスの政策でホームレスはいなくなったため未だにそのような状態の人間がいるとは思ってもみなかった。 「どうしたんだろうね、あの人」 ロイも気になったのかそう言ってきたため二人は声をかけることにした。 「あのー。 王城へ行けば住む場所と清潔な服、そして食べ物がもらえますよ。 もちろん仕事をすることにもなりますが今の状況よりはずっといいでしょう?」 言いながら近付いたその時だった。 「うおッ!?」 フードから飛び出した光る銀色の刃。 鋭い切っ先がオズの鼻先をかすめる。 「な、何をするんだ、いきな・・・ッ」 近付くと顔が見えギョッとした。 そのみすぼらしい男は紛れもなく父親であるはずの元王だったのだ。 「と、父さん・・・」 「お前のせいで全てを失った。 お前だけは許せん。 絶対に殺してやる」 「そ、そんなの逆恨みだろ!! 人のことを恨む前に自分の生き様を悔いろよ!!」 そのようなオズの言葉が今の父に届くはずもなく素手のオズは簡単に壁際へ追い詰められてしまった。 「オ、オズ!! 救助を呼んでくるから辛抱しててくれ!!」 ロイは急いで助けを呼びに行ってくれたがどうやら間に合いそうもない。 ―――・・・俺も他力本願で自堕落な人生を送っていたんだ。 ―――父さんに生き様がどうとか言う資格はないか。 父の目は完全に焦点が合っておらず話し合いには応じてくれそうになかった。 「オズ様!!」 そのような時助けに入ってくれたのはロイでもルーファスでもなかった。 「え、どうして・・・」 「オ、オズ様から離れて!!」 久々ではあるが見間違えるはずもない。 選挙の時、第二の妻にすると息巻いてしまった料理屋の女性だ。 ―――どうしてこんな危険なところへ・・・。 嘘の成績の入れ替えがオズの行いだと皆にバレ当然婚約はなくなった。 もっとも貴族の令嬢たちは元々ルーファスの相手だったし特に未練もない。 ただそれからバツが悪くなり料理屋へ行くこともなくなったが忘れるはずがない。 仕事中だったのか手にはお玉のようなものが握られている。 「誰だ、貴様は?」 父の視線が彼女へいく。 当然お玉が父の持つ刃物に通用するはずもなく、彼女もそれが分かっているのか手がブルブルと震えていた。 「・・・止めろ、よせ」 オズは彼女へ向かって首を振る。 それを見て父は察したようだ。 「・・・ん? そうか。 コイツはオズにとって大切な人間というわけだな」 父は伸びた髭を揺らしながらニタリと笑う。 そして彼女へ切っ先を向けた。 「駄目だ、逃げろ!! 俺なんかに構わなくていい! 俺は君が思っていたような人間じゃないってあの日分かっただろ!!」 「・・・ッ」 そう言うも彼女は首を横に振り逃げようとしなかった。 「くそッ」 ―――・・・いやでも、彼女のおかげで助かったんだ。 ―――この機会を無駄にしていいのか? ―――でも俺にはこの状況をどうにかする実力なんて・・・。 自分一人だともう諦めていたのかもしれない。 いや現に既に諦めかけていた。 なのに彼女の登場でオズの心に炎が宿った気がした。 ―――・・・いや、彼女が頑張ってくれているのに俺が何もしないなんて男として駄目だよな。 オズは他人任せに生きてきた今までを省みて自分から動きたいと初めて思った。 あの選挙の日、彼女を見て本気で妻にしたいと思ったのは事実だった。 それは少し立場がよくなった一時のはっちゃけだったかもしれないが、心が全く動かない相手にそのようなことを思うはずもない。 そんな彼女が今は自分のために身を危険に晒してくれている。 一度は諦めかけた命、それを彼女のために使うのなら悪くないかもしれない。  そう思った時、オズは王へ向かって突進していた。 父も注意が彼女へ向いていたことと見た目通りにやつれていたことから反応が遅れそれは成功する。 「う、くッ、みぎゃぁああぁあ!!」 「ふ、我が父ながら醜い悲鳴だな・・・。 一度牢屋へ入ってアンタも反省した方がいいよ」 暴れる父を押さえ付けその後ロイが呼んできた警察に引き渡した。 ロイが警察に色々と聞かれている中オズは彼女のもとへと向かう。 「ありがとう。 君が来てくれなかったら俺は多分殺されていたよ」 「勇気を出して・・・。 いえ、間に合ってよかったです」 「じゃあ、これで」 オズからしてみれば彼女には嘘をついて騙していたという罪の意識しかない。 これ以上気まずくならないよう足早に去ろうとしたのだが腕を掴んで引き止められた。 「・・・あー、ごめん。 お礼をあげたいところなんだけど今の俺は金をほとんど持っていないんだ」 何かほしいのかと思ってそう言ったが、どうやら首をブンブンと横に振っているため違うらしい。 「ならどうしたんだ? そもそもどうして俺なんかを助けた?」 「・・・」 「君に憎まれ助けられるような人間じゃないはずなんだけど・・・」 「確かにオズ様のしたことは許されないことなのかもしれないです。 だけどそれは私たち庶民がこの国で暮らせるように、という考えからの行動でした」 「まぁそうだけどロイのためっていう私情もあったから」 「嬉しかったんです」 「・・・え?」 「あの時他に貴族の女性がたくさんいて、それでも私を選んでくれたことが嬉しかったんです」 「・・・」 彼女は掴んでいた腕を静かに下ろした。 「元王子様のオズ様にこのようなことを言うのはおこがましいかもしれないですけど・・・。 お友達になってくれませんか?」 「・・・え、友達?」 「無理ならいいんです。 私なんて料理屋の娘無勢が・・・」 「いや、いいよ。 友達になろう!」 「・・・本当ですか?」 「あぁ。 別に身分とかもうなくなったんだから対等のさ。 だから俺のことも様付けなしで言葉も楽に崩してよ」 そう言うと彼女は目を輝かせ本当に嬉しそうに笑った。 それをロイが拍手しながら祝福してくれた。 「凄いね、オズ。 このことはルーファス様の計画にも書かれていなかったよ。 オズ自ら掴み取った未来っていうことだね」 その言葉にオズも思わず顔が綻んだ。 「・・・自分から何かするのも悪くないもんだな」 こうしてオズはルーファスと協力して国の平定に努め、皆平和に暮らしていくことになるのだった。                              -END-
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