赤い糸

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「ゆいちゃん、今日委員会何時まで?」 「ゆいちゃんじゃねぇ!俺の名前は悠一だ!勝手に短くするな!!」 「違うと言ってもちゃんと返事してくれるの好き!小さい時は『ゆういち』が言えなくて『ゆいち』になってて、ゆいちゃんが『ゆいで良いよ』って言ってくれたじゃん。優しかったな〜!今も優しいけど。大好き!!」 「あーー!!うるさい!うるさい!!男に好きって言われても全く嬉しくない!!隼斗はもう終わりだろ?サッサと帰れよ!じゃあな!!」 俺の方が2学年も上で、階が違うと雰囲気も違うので、なかなか他学年が来る事は無いのに、隼斗は動じることなく、事ある毎に3年の階にやって来る。 どちらかと言うと、隼斗が来ると、3年生の方が隼斗を敬遠している。 隼斗は見た目が派手なので、黙っているとそのキツイ雰囲気に圧倒される。 180cmを超える長身に、真っ赤な髪、ピアスを右に4つ、左に3つ開けている。 目は大きく可愛らしいが、唇は薄く、睨みを効かせれば目が大きい分、眼力が凄い。 幼い隼斗を知らなければ、俺だって隼斗を敬遠して口をきくことは無かっただろう。 どこだ……どこで、俺は道を間違えたんだ! 思えば隼斗とは幼稚園も小学校も違う。 なのに、どうしてこんなにも絡まれるんだ……!! もう10年以上前になるので、記憶も朧げだが、思い当たるのは、幼稚園の運動会の帰り……。 年長の幼稚園最後の運動会は、かけっこで一番になり、とても気分が良かった。 嬉しくて、かけっこで使った赤いハチマキをしたまま、父と母と手を繋いで歩いて帰っていた。 俺の通っていた幼稚園の近くに保育園があり、その近くの公園で泣いている男の子が居るのに気がついた。 すぐ側でその子のお母さんがしゃがんで何か言っていたが、男の子の泣き声が大きくて届いていない様だった。 どうもこけたみたいで、膝から血が出ているのを目にした。 運動会の興奮が抜けなかったのか、俺は何故か衝動的にその子の所まで走って行き 「僕の一番あげる!!」 そう言って、赤いハチマキを外してその子の手に渡してあげたんだ。 その子は驚きの方が大きかったみたいで、涙が止まってた。 「かけっこで一番になれたんだ!赤いハチマキカッコいいだろ?あげる!」 俺は胸を張って言っていた。……今思うと、とても小っ恥ずかしい……。 「かけっこで一番……。赤いハチマキ……」 その子は俺の言葉を繰り返し言うと、ハチマキをジッと見つめ、そして俺の方を向き直って 「一番、カッコイイ!赤、カッコイイ!!僕、お兄ちゃんみたいになりたい!!」 キラキラした瞳でそう言われたら気分が良くならない人は居ないだろう。 「この公園、幼稚園からも家からも近いから遊んであげても良いよ」 子どもとは言え、上からの物言いに思い出すと恥ずかしくなるが、確かこの時から、隼斗と俺は毎日の様に遊んでいたと思う。 小学校が違っても遊ぶ場所は公園だから、変わらず遊んでた。 2つ差は大きく、小学校中学年までは俺の方が大きく、力もあったので、お兄さん風吹かせてリーダーの様に中心になって遊んでいたが、高学年になると、隼人の方が背が伸び、体の大きさに比例して力も付き、ドンドン俺は追い抜かされて行った。 俺の影響ではないと思いたいが、隼人は赤が好きで、何かと赤を取り入れており、中3でポツポツピアスを開け、高校に入る時には髪が真っ赤になっていた。 根は真面目だから勉強出来るのに、見た目で損をしている。 一度、なんでそんなに派手なのかと聞いた事あるけど『ゆいちゃんに見つけてもらえるし、俺が目立ってると誰も来ないから』と訳の分からない事を言われた。 昔の事を思い返していたら、委員会もようやく終わった。 一年で一度の活動で良いから楽かなと、体育委員会をしているのだが、体育祭が近くなったので、大分忙しくなっている。 「ゆいちゃん、お疲れ!」 廊下に出ると、隼人が待っていた。 「まだ居たのか!帰れって言ったのに……」 1時間は掛かっていたので、驚いてしまう。 「ふっふっふ!その驚いた顔が見たかった」 おどけた様に言う隼人に呆れる。 「体育祭って学年毎にハチマキの色が違うんだよな?俺、何色だろ?」 「あぁ、1年は赤、2年は青、3年は黄色だな」 これは体育委員でなくても決まっている事なので、誰もが知っている。 「やった赤色!俺、一番取ったら、ゆいちゃんに赤いハチマキあげるね!」 生意気に、俺がやった事を返そうとしてるのか? 「無理無理!リレーは学年毎で競うから1年が3年に勝てる訳ないっつーの!3年は最後だから陸上部で埋めて来るぞ」 張り切ってる隼人には悪いが、現実を教えてやる。 「じゃあさ、それで俺が一番取ったら、奇跡じゃね?」 「まぁ、そうだな。隼人が運動出来ても部活もやってないし、陸上部には敵う訳ないだろ」 これで夢を見るのは諦めろ。 少々気の毒に思っていたが、隼人の目は諦めるどころかやる気に満ちていたのを俺は知らなかった。 後日、見事リレーのアンカーで一位を取った隼人がそのままの勢いで俺の所にやって来て 「俺の一番あげる!これで運命だよ!!一生一緒にいようね!」 と、自分の腕に俺が幼稚園時にあげたハチマキを結び、自分のハチマキを俺の腕に巻き付けてきた。 「太い運命の赤い糸だなぁ!!」 誰かが、俺たちに向かって言ってきた。 「そう!絶対切れない運命の赤い糸だよ」 隼人が嬉しそうに答えてた。 俺は真っ赤になりながらも、真剣に走る隼人の姿が頭から離れず、文句を言えず受け入れていた。 チクショウ、年下のくせに……。 俺の事に真剣になる所、実は好きだったんだよ……。 年下のクセにとあれこれ難癖付けて自分を上に持って行っていたけど、そろそろ自分の気持ちを含め、隼人を認める時が来たのかな……。 俺は赤いハチマキを見つめて思った。
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