5.不協和音

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「三宅衣都って講師はいる?ここに呼んでちょうだい!」  教室の入口からそんな叫び声が聞こえてきたのは、午後のリトミック教室が始まる直前のことだった。  ちょうどレッスンの空き時間だった衣都は何事かと思いながら席をたち、受付へと急いだ。  受付の前には、ファーのついたロングコートを着た可憐な女性が立っていた。  教室に通う生徒と保護者の顔は大体覚えているけれど、一度も見かけたことのない女性だった。 「三宅は私ですが」  衣都が前に進み出ると、女性の目はみるみるうちに吊り上がり鬼のような形相に変わっていった。 「あんたね!ひとの夫を寝取った女は!」 「え?」  不意をつかれた身体は、いとも簡単に突き飛ばされた。 「っ……!」 「衣都先生!大丈夫!?」  床に投げ出され、強か右半身を打ちつけた衣都に樹里が駆け寄ってくる。 「ふざけんじゃないわよーーーーー!」  女性は獣のようなうなり声をあげ、髪を振り乱しながら暴れ始めた。  入口に飾ってあったトロフィーや賞状を根こそぎ床に叩き落とし、衝立を薙ぎ倒し、椅子を蹴飛ばす。  ゴミ箱を逆さにして、頭からかぶる様子はとても正気とは思えなかった。  衣都と樹里は恐怖で竦み上がった。攻撃の矛先がいつこちらに向くのかわからない。二人は手を取り合い、後退りをした。
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