5.不協和音

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「何があったの……!?」  レッスン途中の教室から血相を変えた和歌子が飛び出してきて、衣都と目が合う。和歌子は受付の惨状を目の当たりにした次の瞬間、ポケットからスマホを取り出し電話をかけ始めた。 「もしもし!警察ですか!?」  警察の到着を待つ間も、彼女の暴走は止まらなかった。  他の講師がビルに常駐する警備員を呼び、男性三人がかりでようやく暴れる女性を取り押さえることができた。  身柄を警察官に引き渡される際、彼女は狂ったようにケタケタと笑っていた。 「あの女がいけないのよ!澄ました顔でひとの夫に手を出すんだから!ザマアミロ!」  衣都も警察から事情を聞かれたが、一体何が起きているのかさっぱりわからなかった。    女性が暴れた理由が分かったのは、更に二日後のことだった。  先日の出来事を鑑みて、週明けまで臨時休業となったにも関わらず、衣都は和歌子から教室に呼び出された。 「わざわざ呼び出してごめんなさいね、衣都先生」 「和歌子先生……」  数日前のことなのに、和歌子の顔には疲労が色濃く残っていた。心なしかやつれたようにも見える。  和歌子は応接室スペースの椅子に腰掛けるようにすすめてくれた。
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