5.不協和音

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 ◇ (なんでこんなことになってしまったの?)  悲痛な心の叫びには、誰も答えてくれなった。  心ここに在らずの状態で電車に乗り、機械的にレジデンスに帰ると、そこには帰国した響が衣都を待ち受けていた。 「おかえり、衣都!」 「響さん。お帰りなさい」  衣都はしまったとばかりに、慌てて笑みを顔に貼り付けた。  帰国の日を連絡してもらっていたのに、事件のせいですっかり頭の中から抜けていた。 「会いたかった」 「私もです」  響は衣都をぎゅっと抱きしめると、二週間分のスキンシップに興じた。  額、瞼、頬へと上から順に口づけ、最後には唇を塞いでいく。  衣都は目を瞑り、黙って身を任せた。 「すれ違わなくてよかった。早く会いたかったから、教室まで迎えに行こうかと思ってたんだよ」    うっかり心臓が止まるかと思った。教室まで迎えにこられていたら、臨時休業のことが知られてしまうところだった。 「どうしたんだい?」 「ううん!なんでもないです!部屋でコートを脱いできますね」  パタンと自室の扉を閉めると、ずるずるとその場にへたりこんでしまう。 (響さんには言えない)  不名誉な噂のことを響に相談したら、婚約の話がなかったことになるかもしれない。  そんなことになったら、生きていけそうもない。
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