5.不協和音

12/21
前へ
/117ページ
次へ
 ◇ 「あのさあ。覚える気、あんのか?」  この日、衣都は招待客リストどこまで覚えたかテストしてもらうために、律のマンションを訪れていた。  結果は、散々なものだった。  教室を休むことになり時間はたっぷりあったはずなのに、ひとつとしてまともに回答できず、お叱りを受ける羽目になった。 「あのなあ、衣都。暇そうにみえるけど、俺だってまあまあ忙しいんだぞ?」 「ごめんなさい」 「早めのマリッジブルーかなんか?響さんも、『衣都の様子が変だ』って心配してたぞ」  響の名前が出てきて、ドキリと心臓が跳ね上がる。  マリッジブルーという単語で済ませられるなら、まだよかったのかもしれない。  ぎゅっと唇を噛み締める衣都を見て、律は気休めを口にした。 「結婚が嫌になったらやめてもいいんだぞ?多少周りから白い目で見られるかもしれないけど、没落した三宅の人間なんてどうせ大昔に忘れられてる。どっちにしろ眼中にないだろうし、困ることもない」  口では結婚をやめてもいいと言ってはいるが、『四季杜海運』に務める律にとって、破談はひとごとではないはずだ。  律には愛する妻と養うべき子どもがいる。  律にここまで言わせてしまったことについては、衣都に責任があった。
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

523人が本棚に入れています
本棚に追加