5.不協和音

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「心配かけてごめんなさい。次はちゃんと覚えてくるわ」 「そうか。じゃあ頑張れよ」  律は無理に何があったのか聞き出そうとはしなかった。  反省の意を示すと、グシグシと無遠慮に頭を撫でられた。  衣都にとって律はいつまで経っても子供扱いしてくれる、無条件で甘えられる存在だった。 「飯、食ってくか?昨日の残りのカレーだけど」 「奥さんは?」 「子供と一緒に出掛けてる。ママ友とカフェランチするんだと。夕方には戻ってくる。衣都に会いたいって言ってたぞ」  衣都は律が作ったと思しき残り物のカレーをいただくことにした。  律が作った料理を食べるのは、律が結婚し、衣都と別れて暮らすようになった時以来だった。  ところが、兄妹水入らずのホッと安らげる時間は瞬く間に終わりを告げた。  カレーを食べ終わりシンクに食器を片付けていると、衣都のスマホが鳴り始めた。  相手は誰かと画面を覗き込むと、衣都のマンションの管理会社からだった。 「もしもし?」  不審に思いながらも電話をとった衣都は信じられない知らせを耳にした。 「どうした?」  ただならぬ事態を察知した律から、何があったのか話すように急かされる。  衣都は真っ青になり、浅い呼吸を繰り返した末にやっとの思いでこう告げた。 「私が住んでいた部屋が誰かに荒らされたみたいなの……」
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