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◇
「さむっ……!」
暖房の効いたバスから降りた途端に冬の息吹を感じ、衣都は己の身体を抱き締めた。
突き刺すような冷気が、道行く人に容赦なく襲いかかってくる。
衣都はマフラーが風に吹かれて解けていかぬよう、首にしっかりと巻きつけ直した。
年末年始の慌ただしさがようやく落ち着いた二月。
今にも雪が降りだしそうな曇天の中、衣都は四季杜家までの道のりを歩いていた。
丘の上から吹き下ろす風は、街の中のそれとは違い格別に冷たかった。
吐く息はどこまでも白く、春の訪れが一層待ち遠しい今日この頃。
響の予想に反して、尾鷹紬からは何の接触もなく、しばらくは穏やかな日々が続いていた。 衣都はようやくピアノと例の宿題に身が入るようになり、リビングにあるグランドピアノの前に座りせっせと練習に励んでいた。
もちろん、綾子の元へ通うのも忘れてはいない。
(今日こそは進展があるといいのだけれど……)
秋雪から結婚の許しをもらってから二ヶ月が経ったが、綾子とは今日まで一度もまともに話せていない。
居留守を使われるか、門前払いのどちらか。
響もこの件に関しては、既に匙を投げている。
それでも、衣都のしつこい行動力を評価し、ときどき同行してくれた。
長らく屋敷へ通っていたが、それも終わりを迎えようとしている。
――梅見の会まで一週間を切っていた。
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