6.梅見の会

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「もう帰らなくちゃ……」  天気予報が正しければ、今夜はこのまま雪が続くらしい。  絶え間なく空から降り注いでくる雪の粒の大きさから察するに、何センチか積もりそうだ。  電車が止まってしまう前に帰らないと、大変なことになってしまう。  衣都はピアノを元通りに戻すと、離れから屋敷に向かって歩き出した。  その途中、なんとはなしに後ろを振り返ると、綾子の部屋の窓からチラリと人影が見えた。 「おば様……?」  ピアノの音に誘われたのだろうか。それとも初雪の珍しさに心惹かれたのだろうか。  どちらでもかまわない。あの窓の向こうには綾子が立っている。  衣都は懸命に声を張り上げた。   「おばさまー!私、梅見の会ではおば様の好きな曲を弾くんですー!よかったら聴いてください!」  綾子は衣都の心からの叫びを聞くと、サッとカーテンを閉めてしまった。 (今はこれが精一杯……)    それでも衣都には一筋の希望の光が見えたような気がした。
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