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「何かいいことでもあった?」
その日の夜、衣都は珍しく早めに帰宅した響と夕食を取っていた。
今日の夕食は鶏肉と野菜のグリルだ。
家政婦が腕によりをかけて作ってくれた衣都の大好きなメニューだが、それはそれとして。
衣都は待ってましたとばかりに喜び勇んで報告した。
「今日はおば様にお声がけできたんです。もしかしたらピアノを聴いてくださったのかも……!」
衣都の気持ちはここ数週間のうちで最も弾んでいた。
綾子が衣都のピアノを聴いてくれたのなら、まだ希望があるのかもしれない。
「そう、よかったね」
「はい!」
夕食が終わり、キッチンで食後のお茶の準備をしている最中も、衣都の上機嫌は続いていた。
その様子を壁にもたれかかりながら静かに見守っていた響が、おもむろに口を開く。
「ねえ、衣都?説得なんて回りくどいことをしなくても、母さんに強制的に結婚を認めさせる良い方法があるんだけど……」
「良い方法?」
「うん」
響は背後から衣都に近寄り、細腰をピタリと己に引き寄せた。
「初孫が出来たら認めざるをえないと思わない?」
「……孫ですか?」
衣都は後ろを振り返りながら、目を瞬かせた。結婚もまだなのに今から子どもの話をするなんて先走りすぎだ。
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