6.梅見の会

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「男の子でも女の子でもいいよ。ピアノは絶対に習わせよう。衣都と連弾したら、きっと楽しいだろうね。夏は一緒にクルーザーに乗ろう。僕が操縦するからさ」 「もう、やだ響さんったら……!子供なんて気が早いですよ!」  響の描く未来予想図は衣都の理想と憧れが詰まっていた。けれど、さも当然のように提案されると、なんだかこちらまで恥ずかしくなってくる。 「僕は本気だよ。なんなら今すぐ作ってもいいくらいだ」 「あ……」  背後から抱きすくめられたまま、無防備なうなじにキスが落とされる。  悪戯な手がセーターの裾を弄り、お腹から上へと這い上がっていく。  下着の上から胸の頂きを探り当てられ、やわやわと刺激されると、我慢できずに熱い吐息がこぼれた。 (今すぐって……そういう意味?)  頭が蕩けて、次第に何も考えられなくなっていく。  衣都とて響と歩む未来をこれまで一度も妄想してこなかったわけではない。  赤ん坊はきっと目がクリッと真ん丸で可愛いんだろうなとか。響と同じように船に関心を持つようになるのかなとか。  とりとめのない妄想を膨らませては、どうせ実現しないと諦めていた。  ところが今、彼は衣都との子どもが欲しいと懇願している。 (嬉しすぎて、どうにかなりそう……)  綾子の説得を志願したのは自分なのに、甘美な誘惑に負けそうになる。  溢れんばかりの愛情と執着を滲ませる蠱惑的な瞳に魅入られると決意が揺らぐ。  それでも衣都は懸命に抵抗した。
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