6.梅見の会

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「あ、ダメです……!」 「今日は体調が優れない?」  違うと衣都は首を横に振った。  このまま妊娠して結婚を強行してしまったら、意味がない。  楽な方に逃げようとすることはいつでもできる。 「もう少しだけ待ってもらえませんか?私、結婚するならやっぱりおば様に祝福されたいです。一生に一度のことですし……」 「うん、わかった。君がいいって言うまで待つよ」  響はそう言うと衣都をひょいと抱き上げ、ベッドルームまで運ぶと、マットレスに丁寧に下ろした。 「あの、響さん……?」 「母さんの件は衣都に任せる。その代わり、一緒にいる時くらいは僕のことだけ考えて」 「いつも考えてます!」  心外だとばかりに声を荒らげると、響は拗ねたように口を思い切り尖らせた。 「衣都の嘘つき。一番はピアノだろう?今は母さんが二番目。僕のことは後回しじゃないか」  身に覚えがありすぎて、ついギクンと肩を揺らす。  そういえば、最近は昼間に頑張りすぎているせいか、響より先に寝てしまうことが多かった。 「今日はとことん付き合ってもらうから覚悟して」  その夜、響は開き直り嫉妬心を隠そうともしなかった。絶え間なく押し寄せる激情を衣都に注ぎ、もう無理だと何度訴えても離してもらえなかった。  提案をすげなく却下したことが、良くなかったのかもしれない。 (次は手加減……してもらおう……)  満足げに眠る響の腕の中、彼の悋気を受け止めきった衣都は疲れ果てながら意識を手放した。
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