6.梅見の会

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「この人は?」 「高瀬物産の……えっと……。下河原さん?」 「趣味は?」 「ゴルフとウイスキー」 「……まあ、いいだろう」  律から招待客リストの暗記を試されていた衣都は、無事に合格点をもらえて満面の笑みを浮かべた。 「本番は明後日か。あっという間だったな」 「うん」  分厚い招待客リストを抱えながら律のマンションに通うのも、これで最後かと思うと感慨深かった。  兄妹ふたりきりで過ごす時間もこれっきりなのかもしれないと、突然寂しさにも似た感情に襲われる。  ……ブラコンのようで恥ずかしいけれど。  衣都は本音を押し隠すようにダイニングテーブルの上に置かれたマグカップに口をつけ、温かい緑茶を胃の中に流し込んだ。 「綾子さんの説得はできたのか?」  衣都はにんまりと口角を上げ、鼻高々で頷いた。   「出席してくださるそうです」 「そうか。そりゃ良かったな」  律はテーブルから身を乗り出しおざなりに衣都の頭を撫でたかと思うと、姿勢を正し急に真顔になった。 「衣都、お前に伝えておきたいことがある」 「どうしたの?急にかしこまって……」  律は謙虚や礼儀という言葉とはとことん無縁の男だ。  かしこまった姿なんて、オスの三毛猫ぐらい珍しい。 「お前の部屋を荒らした犯人が捕まった」  衣都は息を呑んだ。  先ほど飲んだ緑茶が逆流しそうなほど、胃の中がずしりと重くなっていく。
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