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「この人は?」
「高瀬物産の……えっと……。下河原さん?」
「趣味は?」
「ゴルフとウイスキー」
「……まあ、いいだろう」
律から招待客リストの暗記を試されていた衣都は、無事に合格点をもらえて満面の笑みを浮かべた。
「本番は明後日か。あっという間だったな」
「うん」
分厚い招待客リストを抱えながら律のマンションに通うのも、これで最後かと思うと感慨深かった。
兄妹ふたりきりで過ごす時間もこれっきりなのかもしれないと、突然寂しさにも似た感情に襲われる。
……ブラコンのようで恥ずかしいけれど。
衣都は本音を押し隠すようにダイニングテーブルの上に置かれたマグカップに口をつけ、温かい緑茶を胃の中に流し込んだ。
「綾子さんの説得はできたのか?」
衣都はにんまりと口角を上げ、鼻高々で頷いた。
「出席してくださるそうです」
「そうか。そりゃ良かったな」
律はテーブルから身を乗り出しおざなりに衣都の頭を撫でたかと思うと、姿勢を正し急に真顔になった。
「衣都、お前に伝えておきたいことがある」
「どうしたの?急にかしこまって……」
律は謙虚や礼儀という言葉とはとことん無縁の男だ。
かしこまった姿なんて、オスの三毛猫ぐらい珍しい。
「お前の部屋を荒らした犯人が捕まった」
衣都は息を呑んだ。
先ほど飲んだ緑茶が逆流しそうなほど、胃の中がずしりと重くなっていく。
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