6.梅見の会

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「被害届は提出しなかったはずでしょう?」 「響さんがマンションの管理会社に被害届を提出するよう根回ししたんだよ。被害者が四季杜に縁のある女性とわかれば、警察も真面目に捜査するさ」  律はあえて業務連絡のように淡々と説明した。 「逮捕されたのは、二十代の男性二人組。SNSでいいアルバイトがあると、誘われたらしい。依頼人は衣都の部屋を荒らした写真を送ると、報酬を倍にしてくれたそうだ。随分と景気のいい話だよな?」  つまり、犯行は無差別ではなく、意図的に行われたということだ。  足がつかないようにSNSで人を集めるくらいだ。手慣れているのか、かなり頭がいい。  わざわざ他人を雇い衣都に嫌がらせをするほど、恨みを募らせている人物はそう多くはない。 「それから、響さんから頼まれて、例の教え子の母親の交友関係も調べた。半年ほど前から尾鷹紬が主催するサロンに頻繁に足を運んでいたようだ」  律は黒幕は尾鷹紬に違いないと暗に示していた。  一連の出来事の関連性を指摘され、衣都の表情がこわばっていく。  響の予想は最も最悪の形で当たったことになる。 「気をつけろよ。まだ何か仕掛けてくるつもりかもしれない」 「うん。心配してくれてありがとう、兄さん」  衣都には律の忠告の意味が手に取るように分かった。  まだ事件は終わっていないのだ。むしろ、これからが本番なのかもしれない。   (私達、本当に無事に結婚できるのかしら……)  すべてが順調に回り始めているというのに、どうあっても不安が拭えない。  今はただ、梅見の会を無事に終えられることを祈るばかりだった。
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