6.梅見の会

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「うわあ!」  旧四季杜邸の内部に足を踏み入れた衣都はビロードの絨毯が敷かれた大階段を見上げ、感嘆の声をもらした。  廊下を歩けばアンティークの調度品が、お行儀よく揃って出迎えてくれた。  メイン会場となる二階の大広間にはグランドピアノが設置されている。  普通の住宅よりは天井が高い分、音の響きがよさそうだ。  ピアノの音を想像しながらフラフラ歩いていると、響に肩を抱かれる。   「今日は出来る限り君の傍にいるからね」 「でも……」  今宵の響はホストのひとりでもある。  招待客の相手に、プログラムの段取りと、本来なら衣都にかまけている余裕はないはずだ。  いくらなんでも招待客が大勢いる中で乱暴なことはできやしない。  面倒をかけることにためらいを覚える衣都に対し、響は一切表情を崩さずこう言った。 「君に何かあったら僕は生きていけないって、ちゃんと自覚しているのかい?」  不意打ちを食らった衣都の顔は耳まで真っ赤に染まった。  最大級の愛の台詞は脚色ではなく、本気でそう思っているからこその破壊力があった。 「わかりました」  観念した衣都が渋々頷いたその時、大広間の扉がギイッと軋んだ音をたてながら押し開かれた。
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