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「やあ、衣都ちゃん。調子はどうだい?」
「おじ様!」
片手を上げた秋雪が靴音をかき鳴らしながら、こちらにやってくる。
軽く会釈した衣都は異変にすぐに気がついた。
秋雪の傍らにいつも寄り添っている綾子の姿がどこにも見当たらない。
「あの……おば様は?」
「私も一応、出がけに声はかけたのだけれどね……」
秋雪はバツが悪そうに、頭を掻いていた。秋雪もまさか綾子がここまで意地を張ると思っていなかったのだろう。
(そんな……!)
崖から真っ逆さまに突き落とされたような絶望的な気持ちだった。
出席すると言っていたはずの綾子が約束を違えた。
(ううん。決めつけるのは早いわ。まだ時間はあるもの……。きっと後から来てくださるわ)
しかし、衣都の願いも虚しく、招待客を建屋の中に招き入れる時刻になっても、綾子は姿を見せなかった。
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