6.梅見の会

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「衣都、そう気を落とさないで」 「わかっているわ、響さん……」  予定の時刻になり、大広間には着飾った大勢の招待客が集まっていた。  バルコニーのカーテンは開け放たれ、窓からは美しい梅園が一望できた。  綾子不在の中、梅見の会が始まろうとしている。  既に着替えを済ませタキシード姿の響は、落胆する衣都を慰めるように背中をさすった。  四季杜に嫁入りする人間として、与えられた役目は果たすべきだ。  たとえ綾子がいなくても、招待客に恥じない演奏をしなくてはならない。 「本日はどうぞお楽しみください」  秋雪によって会の始まりが華々しく宣言されると、衣都は響の隣を定位置にして会場中を挨拶して回った。 (パーティーって大変……!)  かつては良家の子女でもあった衣都だが、本格的な社交会は初めてだった。  ホストを務める四季杜家の面々は、目の回るような忙しさだった。  四季杜家と交流を深めたい人達は大勢いる。  響は招待客ひとりひとりと談笑しながら、余興の采配から、グラスの空き状況までさりげなく気を配っていた。  まるで聖徳太子のような早業だった。とても真似できない。  更に衣都を困らせたのは、皆が口をそろえて綾子はどこかと尋ねてくることだった。  気さくでいつも笑顔を絶やさない綾子は招待客の誰からも愛される存在だった。  衣都など足元にも及ばない。
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