6.梅見の会

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「そろそろ、準備の時間です。控え室までご案内しましょう」  どこからともなく現れた律は、真っ青になり動けなくなっていた衣都を颯爽と大広間から連れ出してくれた。 「衣都、大丈夫か?」 「ええ、平気……」 「招待されたパーティーの席でホストの婚約者に喧嘩を売るなんて、あの女達は頭が沸いてんのか?」  律は彼女達の行動を忌々しげに吐き捨てた。  衣都はぎゅっと唇を噛み締めた。 (あの人達は知っているんだわ)  衣都の身に何が起こったのかすべてわかった上で、不快にさせてやろうと、底意地の悪い真似をしている。  衣都は一階にあるゲストルームまで、律に付き添ってもらった。  元々はゲストルームとして使われていた一室だったそうだが、今日は衣都のために控え室としての役割を与えられている。   「兄さんは大広間に戻って?私は演奏の準備もあるし、ここにいるわ」 「何かあったらすぐに呼べよ」  律が大広間に戻っていくのを見届けると、衣都はトートバッグから譜面を取り出し、テーブルに上に立てかけた。  天板を鍵盤に見立て、指使いをおさらいしていく。  ひたすらイメージトレーニングを重ねていた衣都の手が、急にピタリと止まった。  ゲストルームの扉が小さくてノックされたのだ。
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