6.梅見の会

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「衣都ちゃん。入ってもいいかしら?」  扉の向こう側からくぐもった綾子の声がして、衣都は慌てて扉を開けにいった。   「おば様!いつ、こちらにいらっしゃったんですか?」 「ついさっきよ。遅れてごめんなさい」  綾子は殊勝な様子で、衣都に謝った。  元々、ふっくらした身体つきの綾子だが、数ヶ月顔を見ないうちに随分と痩せてしまった。 「衣都ちゃんにどうしても見せたいものがあるの……私について来てくれる?」 「でも……」  衣都はチラリとテーブルの上の譜面に視線を送った。  本番まで、さほど時間がない。できることなら、ひとりで集中を高めておきたいのが本音だった。 「すぐに終わるわ。どうか、お願い……」 「わかりました」  綾子の必死の懇願に、とうとう衣都は首を縦に振った。  綾子は先導するように衣都の前を歩いた。  ゲストルームを出ると、廊下を左に曲がり、旧四季杜邸の外へと連れ出される。  綾子が見せたいものとは一体なんなのだろうか。綾子は梅園とも、敷地の門扉とも異なる方角に足を進めて行った。
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