7.春を寿ぐ旋律

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「響さん!」 「話は後だ。衣都を助けに行く」  あとを追いかけてきた律と一緒に、土蔵まで敷地内を走り抜けていく。  息を切らしながらたどり着いた土蔵には、外側から閂がしてあった。  埃が拭われた跡は新しく、つい最近開けられたことを意味していた。  響は閂を抜き取り、祈るような思いで扉を開いた。  そして、真っ先に目に飛び込んできた光景に唖然とした。  衣都は土蔵の中にあった木箱を積み重ね、その上によじ登っていたのだ。   「衣都!何をしているんだ!」 「響さん?」  自分の身を顧みない危険な行為に思わず声を荒らげた。これが失敗だった。   「きゃっ!」  集中力を切らした衣都が体勢を崩し、ガラクタごと崩れ落ちたのだ。 「衣都!」  響はガラクタを掻き分け、衣都を必死で掘り起こした。木箱はいくつか壊れ中身が割れていたが、今は衣都の無事を確認するのが先だ。 「大丈夫かい!?」 「ええ」  衣都に目立った外傷はなく、響は心の底から安堵した。  しかし次の瞬間、衣都の顔が苦痛に満ちた表情に変わった。 「いっ!」 「どこが痛い?」 「み、右足が……」  落ちた拍子に足を捻ったのか、衣都は痛そうに右足をさすった。これから大事なピアノ演奏を控えているというのに、まさかの出来事だった。 「医者を探してきます!」  律はすぐさま旧四季杜邸の母屋に走って行った。
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