7.春を寿ぐ旋律

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「怪我人はこちらの女性ですか?」  律が連れていた男性は、あるスポーツ用品メーカーの重役だった。確か、トライアスロンが趣味で、大きな大会で優勝した経験もあったはずだ。  スポーツ経験者なら、足の捻挫には詳しいだろう。  響は律の機転に舌を巻いた。 「ちょっと立ってみてください」  男性に促されると、衣都はそろそろと立ち上がり、地面に足をついた。痛みはあるが、立てないことはないようだ。 「骨は折れてなさそうですね。とりあえずRICEしましょうか。すみません、氷水を持ってきていただけますか?」  男性は律に必要なものを指示し、それが届くとテキパキと応急処置を始めた。  手際よく患部を冷やし、タオルと椅子で足首を心臓よりも高い位置にあげていく。 「ありがとうございました。もう平気です」  ひと通りの処置が終わり立ちあがろうとした衣都を律が慌ててその場に押しとどめた。 「無理すんなよ!今は痛くないと思っても、後から痛みが増してきたらどうすんだよ!」 「私はピアノを弾かないといけないの!」  苦痛に耐えながらも、衣都の瞳は爛々としていた。  響すら圧倒する燃え立つような激しいオーラに、思わず全身が総毛立つ。  妻にと望む女性の奮い立つ姿に、響はただただ魅力されていた。  響が惚れ込んだのはまさしく、この勇ましい姿だった。
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